鈴井奈々-1
里美は仕事を終えると、岳斗のマンションに向かった。奈々の事が心配で、岳斗に暫く奈々に関わらないでいてくれるようお願いをしようとした。それに自分が岳斗にたくさん会えば、自ずと奈々を呼ぶ機会も減るだろうと考えていた。
岳斗の部屋に入りソファに並んで座る里美。岳斗はすぐさま里美の胸元から手を入れ胸を揉みながらプライム・ゼロの録画を見始める。そして奈々が脱ぎ始めるところから再生した。さすがに里美も少し胸を痛めた。
だが岳斗はニヤリと笑いながら言った。
「やりやがったよな、あの女。くくく!」
「??何が?」
言葉の意味が全然分からなかった里美は岳斗に聞いた。
「あいつが仕組んだんだよ、全てを、な。きっと。」
「仕組んだ??」
「ああ。全てはあいつの掌の上で踊らされていたって事だ。」
「え?何が??今日の放送の事??」
岳斗な首を横に振る。
「これ、中本も奈々にやられたんだよ、きっと。」
「えっ!?」
「中本も地雷踏んじまったなー。可哀想に。くくく」
「えっ??じ、じゃあ…」
岳斗は嬉しそうに言った。
「結果的にさぁ、これで奈々は過去に裸の写真や動画を撮られた負い目を全て無効化したって事だよ。もう裸を流出させられる恐怖から逃れられたんだからな。自ら裸を世間に晒したんだから。もう誰も奈々にはリベンジポルノは使えなくなったって事だよ。しかもリベンジポルノを一番知られたくない相手、旦那の直人も消し去ってしまったしな。例え俺が撮った奈々の写真が流出しても、見られたくない相手がいないんだ。奈々にもう負い目はないし、今さら何枚か写真が流出しても怖くはないだろう。脱いでない女の写真だからこそ見たいが、脱いだ女の子の新たな写真にさほど価値はないからな。」
「え?じゃあ奈々さんはその為に放送で脱いだって事?」
「それだけじゃないだろう。多分中本が接待をジャパンTVのアナウンサーに持って行った時から、全ては奈々の計画だろう。全部シナリオ通りって事だ。じゃなきゃ昨日の今日であれだけのインタビューや取材が出来る訳ないだろう。準備が良すぎる。予め何が行われていたのか把握してなきゃあんな早技無理だ。奈々は初めから最後は脱いで事態を終結させるつもりだったんだ。それに見ろ。」
岳斗は違う録画をテレビに映した。
「今回、ジャパンTVの男性社員による我が韓国人女性への暴行の権利、許しがたい事件だ。テレビ局の人間が歴史的背景を知りながら我が韓国人女性を慰安婦と罵倒した事は誠に持って遺憾であり、強い憤りを覚える。いかなる謝罪も受け入れるつもりではなかった。しかしジャパンTVアナウンサー、鈴井奈々さんの、自分を犠牲にした謝罪に私は心を動かされました。日本人女性が韓国人女性の為、自らの生涯を苦しむあの行動に私は感謝の意を表します。今回の件、鈴井奈々さんに免じて大きな問題にするつもりはありません。逮捕された愚民にしっかりと罰を与えるのならば、それで終わりにしようと思います。」
韓国の分首相の会見だった。
「これで奈々は日韓問題に発展しそうだった大問題を解決したって訳だ。もう奈々はそれだけで大きな権力を持ったんだ。恐らくジャパンTVの時期社長は奈々だろう。今のジャパンTVの女性社員の中で今の段階で誰が社長になった方が世間は納得するかを考えたら奈々しかいないしな。」
「え…?奈々さんはそこまで考えて…?」
「そこまでかどうかは分からないが、理想に近い形にはなっただろうな。恐ろしい女だ。くくく!」
里美はリフレッシュルームでの奈々を思い出した。あの笑みも、岳斗が言った事が本当なら納得も行く。それが本当なら、鈴井奈々はなんて恐ろしい女にのだろう、そう思い怖くなるのであった。