スケベな身体の四十路ババアはハードコアAVに出ろ!?-11
エレベーターが動き出す音がした。
上階から誰かが降りてくる。
梶谷は涙を拭い、平然とした顔を装った。精一杯の無理をしているようで痛々しい。
朱代も取り繕って何事もなかったような態度を作った。
エレベーターは一階に到着し、扉が開いた。
出てきたのは、数名の子分を伴ってた大谷だ。
「見とったでえ。どんくさい会見しよってからに」
ポケットに手を突っ込んだまま、キスでもしそうな近さで朱代に嫌味を垂れる。
「すんません、さすがに動揺してたみたいで……。見ちゃいられねえんでひとまず引っ込めましたよ」
梶谷が横合いから馬鹿にしたような口調で言った。
大谷の前だと妙にへこへこする理由を聞いてしまった朱代は、そんな彼を責める気になれなかった。
むしろ、彼とその妻子を守らなければならない立場にあるのではないか。
「大谷さん」
ズイッと一歩踏み出す朱代。
気圧された大谷が後ろへ倒れそうになるのを、子分たちが支えた。
「今日はみっともないところをお見せしましたが、改めて会見は行いたいと思います。ただし、行儀の悪い記者たちが群れる中での会見はお断りしたいですね。そちらで何らかのきちんとした場を設けて下さるなら、喜んでお受けしますよ」
「お、おう……何やぁ、偉そうな物言いしよってからに。まあええわ、文句つけられんくらいキッチリした発表の場所作ったろやないけ」
そう言うと大谷は梶谷に向き直り、
「御寮はんがこう言うてんねんから、それまでにきっちり契約書取っときや。正式にお前とこのプロダクション所属ちゅうことにして、大々的に広告も打ったるんや」
指示を残して、去っていった。
「……申し訳ありません」
乗り込んだエレベーターの中、大谷は俯きっぱなしだ。
「謝ることないよ。大谷に由梨絵さんと凛子ちゃんを握られてんだから。それにしても、帝龍会の奴ら……汚いやり口を考えるもんだね」
「何から何まで俺が悪いんです。AVなんてみっともねえシノギしてたばっかりに、大谷のクソ野郎につけ入られちまって」
「今さら泣き言並べ立てたって仕方ないじゃないか。あたしはもう覚悟決めたんだから」
「姐さん……」
エレベーターを降りると、朱代が先に立って事務所へと入っていった。
「契約書とやら、書いてやろうじゃないか。ただし十億円のギャラは確かに頂いて、うちの人の保釈に使ってやるさ」
瞳に強い意志をたぎらせ、朱代は腕をまくった。
「あたしが身体張って首領(ドン)を娑婆に出す。そして、帝龍会相手にでっかい戦争仕掛けるのさ。巻き返してやろうじゃないか!」
白い二の腕に艶かしく映える彫り物の藍色。
意気に感じたかのか、梶谷がぐっと歯を喰い縛り、また涙ぐんだ。