ハニートラップ-2
放送を終えアナウンス室に戻る2人。今や堅い信頼関係を築いた先輩後輩と言うよりも、ベストパートナーと言った感じだ。敵対心剥き出しでいた頃が懐かしくも感じる。今や笑い話だ。
周りに誰もいない事を確認し、里美が奈々に聞いた。
「上田紗子さんて、そんなにお酒弱かったでしたっけ??」
奈々はニヤッと笑う。
「強いわよー、彼女は。実際、いくら飲んでも酔わないわ。」
「え?でもそしたらそんな彼女が酔うぐらいに飲まされたって事ですか??」
「酔わないわよ、いくら飲んでも。里美、あれはハニートラップよ?」
「ハニートラップ??」
「うん。彼女は安田官房長官の女性に対する扱いに相当不満を抱いててね。彼の秘書って歴代みんな美人なの。それは能力なんてどうでも良くて、彼にとって秘書の役割ってセックス、それのみなんだって。」
「え?」
「秘書でいたけりゃ股を開いてろ!が口癖で、他にも美人な職員を見つけるとその権力を振りかざして好き放題ヤッてるみたい。そんな女性への扱いに怒りを抱いてた彼女が彼を失脚させる為に仕組んだハニートラップなのよ。」
「え?マジですか??」
「うん、マジ。私、彼女とはたまに飲むのよねー。他の人の前ではお酒が弱い振りしてるけど、私の前だけでは本当の彼女を見せてくれるのよね。一晩飲んでも全然酔わないの。彼女には勝てないわ、私も。」
「え?お知り合いなんですか??」
「うん。今回の件も、実は聞いてたの。安田をやっつけるから大々的に放送よろしくって。内緒よ?」
「そ、そりゃあ言いませんが、マジなんですか?」
「うん。マジ。」
「じゃあ、わざとレイプされて、わざと膣に傷を負って、中に出されたって事ですか?」
「そう。予めピルは飲んでたんだろうけど、濡れてない状態で犯された事は事実。彼女はそこまでやる女よ?そんなトコがすきなのよね。」
「ある意味自分を犠牲にしてまで女性の立場を守ろうとする姿勢、尊敬出来ます。」
「彼女、里美の事も好きな人間だって言ってたわよ?後で一緒にご飯でも食べましょって。」
「ハイ。是非!」
「うん!」
密かにそんな話をした。
卑怯な手かも知れないが、奈々は様々なネットワークを使い、協力して世の中から女性に対するハラスメントをなくそうと努力をしている。力では敵わない男だが、女同士が結託すれば必ず大きな力になる、そう信じていた。奈々も振り返れば自分を好きにしようとしてきた男はほぼ撃退して来た。男に立ち向かうとする女性とは気が合うのだ。しかし大抵の男には負けないつもりではあるが、1人だけどうしても敵わない男がいる。それが岳斗だ。当然岳斗には勝ちたいとは思うが、やられっぱなしの自分も好きだ。奈々のハラスメントに対するエネルギーは、もしかしたら岳斗から得ているのかも知れない。自分では分からないが、もしかしたら岳斗には勝つつもりはないのかも知れなかった。岳斗に勝ってしまったらエネルギーの源を失う事になるから…。