あたしのYANG KEY-7
あたしは立派な扉をノックする。声は聞こえない。勝手に入っていいのかな…?まっ、いっか。熊公だし!なんて軽い考えで入ると、あたしはまた、壁にベターンと張り付くことになるのです。
「ヨリぃー!」
みっくん!…何でここにいんの!?学校来てないんじゃないの!?ダメよ、頼香。ここでみっくんと話すと殴られるぞ。シカト決め込みなさい。
「ちょっとヨリ?シカトすんなよ!!」
ぐんぐんみっくんの顔が近付いてくる。ダメダメ、口開いちゃダメッ!
「ヨリ!!何でシカトすんだよっ!」
ダメだぞ、ダメ、ダメ。
「ヨリぃ?ヨリッ!頼香ちゃ〜ん!!」
ダメ、ダメ、ダム、ダム…ダム?違う違う。…あーっ、もうダメだ!
「オマエが話すなっつったんだろぉが!!」
…あぁ、話しちゃった…。でも…え?何でみっくん、あたしに話し掛けて来たの…?
見ると、すぐ目の前にみっくんの驚いた顔があった。
「ごめんなさい」
みっくんは、ぼそっと呟くとちょっと頭を下げてみせた。
いやいや、訳わかりませんけど…。
「ここでなら話してもいいからさ。ごめんなぁ、俺言うの忘れちゃって!」
みっくんは一人で大笑いしながら、頭を掻いた。その笑顔が憎たらしいのなんのって…。
「いってぇ!!」
ほら、あたしの蹴り炸裂じゃん!みっくんは太ももを押さえて、痛そうに顔をしかめている。
「みっくんのバカ!!カス!!ボケェ!!みっくんにあんなこと言われて、あたしどんだけ傷ついたと思ってんの!?風の噂によると授業も出てないとか…人生舐めんなよ!?そんなに甘くないんだかんね!つぅか、今日ここに来たのだってみっくんのためで…突き放されてんのに、やっぱみっくんを助けるためで…あーもうっ、何言ってんの、あたし!?」
待て待て、本当にあたし何言ってんの?何暴露しちゃってんの?うっわぁ、最悪。恥ずかしい!
「…俺のため?」
みっくんが首を傾げた。その姿を見て、あたしは自分の顔が赤くなっていくのが分かった。
「俺のためって…どういうこと?」
みっくんが近付いてくる。腰を少し屈めて、俯くあたしを覗き込む。それがすごく近くて、あの頃のみっくんとは全然違う。みっくんはもう子供じゃなくて…。そう思うと、あたしの顔はますます熱くなった。
「…その…みっくん…」
言葉がうまく出てこない。みっくんの茶色い瞳で見つめられると、うまく話せなくなる…。
みっくんの顔が近付いてくる。顔を背けたり突き飛ばしたり出来るのに、あたしの頭はそれをしようとしなかった。
「いやぁー!!若いっ!!若いなぁ、甘酸っぱいなぁ!青春万歳!!」
「ギャァァァーッッ!!」
あたしとみっくんは同時にブッ飛んだ。心臓がドンドンと盆踊り並に騒いでいる。校長室のドアのすぐ脇で熊公が「ガッハッハッ」と高笑いしていた。
「熊公っ、いつからいたんだよっ!」
「入ってきたのは本当ついさっきだぞ?頼香が『みっくんのバカ!!』と言ったぐらいから外で聞き耳立ててたがなっ」
一番盛り上がる部分からかぁっ。熊公…なかなかやるなぁ。
「ところで頼香、俺に用事あったんじゃねぇのか?」
熊公がにこにこしながら言った。そうだ、忘れてた…。
「あのね熊公…カクカクシカジカで…」
あたしは熊公とみっくんに、自分の思いを打ち明けた。
「つぅ訳で、あたし、みっくんにもみんなと仲良くなって欲しいのっ!」
言った、言ったぞ…。
「だってよ、満」
「どうする、熊公」
なんだ、その相談は?
「いや、俺もさぁ出来るなら仲良くしてぇよ。でもさ…ねぇー熊公」
「ねぇー」
だからさ、さっきから何なのよ。
「ちょいと!焦らさないでくんないっ!?」
熊公はみっくんにアイコンタクトをしている。するとみっくんは、目を閉じて頷いた。
「頼香には話すけどなぁ。実は去年…」