あたしのYANG KEY-10
「東…村井…」
伊藤先生が目を見開いていて、固まっているにも関わらず
「酸欠…」
「眩しい…」
ドンガラガッシャーンッと二人は机に突っ込んだ。あーあ…オバカ…。
「イッテテ…まさか先生が見てたなんてなぁ」
「でも、もう時効だから大丈夫!!」
時効なんてあるの?たぶん、めぐ、適当なこと言ってんだろうな…。
伊藤先生の顔はめちゃくちゃになっている。悔しいような、泣きたいような、怒ってるような…プクク、おもしろい顔ぉー!
「いいですか!もう人の弱み探したり脅したりすんの止めな!!いい大人が…弱っちいですよ?誰かがもし、あなたに脅されたなんてこと、ちょっとでもあたしたちが聞いたら…」
「あんたの弱み、バラしますからねっ!!」
あたしたち4人の声が重なった。伊藤先生は悔しそうに頷いた。
「はぁー、すっきりしたぁっ!」
あたしたちは、めぐ&ホッシー夫妻と別れたばかりだ。
「けどさぁ、よく知ってたね。めぐが弱み握られてたの」
「俺さ、愛未たちを見ている伊藤を見てたから、すぐわかったんだ。その日に熊公が『伊藤は弱み探しが趣味』だって教えてくんなかったら、ヤバかったな。俺、すぐブッ飛んでったもん」
めぐを見る伊藤を見るみっくん…ややこしい。
「じゃあ、明日からみっくん教室来れるねっ」
「あぁ、一日中座ってんのめんどいな…途中で帰ろっかなぁ…」
「ちょっと、クソヤンキー!!もう少し真面目になんなよっ!せっかく誤解も解けたんだしっ」
あたしは立ち止まってみっくんの背中をバッチーンと叩いた。
めぐもホッシーも「よろしくね!」ってせっかく言ってくれたのに。
みっくんは「イッテェ」と言いながらも、なぜかその顔は笑顔だった。
「そうだなぁ…ヨリが隣の席だしな。楽しくなりそうだっ」
…何で?何であたし、みっくんにときめいてんの?みっくんの笑顔に…一つ一つの仕草に…ドキドキする…。もっと近付きたいって思う。
「あの…さ…昨日校長室で、何しようとしたの…」
これ聞いちゃまずいでしょ〜!とか思ってるのに、なぜか期待している自分がいる。何しようとしてたかなんてわかってんのに…。
「何って…?」
「何って…」
みっくんは首を傾げた。あれ、みっくんの頭の上にハテナマークすげぇ浮いてるんですが…。
「まさか、覚えてないんじゃ…?」
「俺…何かしたっけ…」
コイツ完璧に忘れてやがる…!何だ…あたし一人盛り上がっちゃって、バッカみたい!まぁ、みっくんとあたしの関係上、愛だの恋だのフラつく訳ないか…。
「ううん、みっくんはなぁーん…」
……………………!!
はあぁぁぁぁぁああっっ!?みっくんの顔が…近くに…っつぅか…唇に唇が…みっくんの香水の香りが…すぐ近くでする…。
ゆっくりみっくんが顔を離した。そして悪戯っ子のように笑って「思い出した」と言った。
「………ぅあ〜っ!!」
あたしは目の前で笑うみっくんをポカポカ叩いた。
だってさ予想なんてしてなかったもん…。みっくんのあの態度、まじで忘れてたっぽかったのに…。
「…でさ、今のでわかってもらえたと思うんだけど…俺、ヨリのこと好きな訳で…」
みっくんは叩くあたしの両腕を制止させてから、ゆっくり途切れ途切れに言った。
「その…俺の彼女に…なって欲しいなぁ…と、思う訳で…」
電灯の光でみっくんの顔ははっきり見えた。みっくんは恥ずかしそうに顔を伏せた。その横顔は耳まで赤くなっていた。何ソレ、可愛すぎだよ。