決行へのカウントダウン-3
「俺だって、そんくらいはわかってるんだけどさ。あんまり金、金っつーのもよ」
頭ではわかっていても、気持ちが整理できないのだろう。
特に、頭で考えるより、直感的に行動する聡太だけに、納得がいかないに違いない。
「そうだよな。地方の町にとって、経済効果を見込めるイベントがあるだけでも、御の字だからな」
一流企業で働く一也は、地方経済の疲弊と閉塞感による先行きの不透明さを重々承知している。
外から人が集まる「集客事」を作り上げることに、各自治体は、それこそ必死になっている。
その「集客事」が、この町にはあるのだ。四苦八苦しても、なかなか成果が上がらない多くの市町村がある中、この町は成果も上がっているのだから、他から見れば、垂涎物のはずだ。
「だからこそ、ゾーンを設けて住み分けしたんじゃないか」
聖域とまではいかないが、地元民のみしか入れないエリアも設けてある。
そのラインは、まさに「観光イベント」と「神事」の境界線となる。
送り火から納め火。それこそが観光と神事の分かれ目。
オープンになった火祭りだが、そこだけは譲れない神事として、昔ながらの風習そのままに執り行われる。
小高い山の中腹に建つ神社。
山の南尾根には、年に一度、火祭りの時にしか使われない山道がある。祭りに使う火が通ることから、「御火道」と呼ばれている。
普段は固く閉じられた「御火門」が、神事としての境界線になる。
観光に力を入れることが、町全体の共通認識になろうとも、さすがに永年続く神事の部分は、譲れない一線だった。
御火門までは、一般観光客でも近づいて見物出来るが、そこから先は、町民でも限られた者しか入ることはできない。
これも、古くからの習わしで、祭り関係者のみが、進み入ることを許されていた。
御火門は、関係者全てが入場し終わると、火門番によって閉じられる。
その時、火門番によって口上が述べられるのであった。
その口上役として、今年は透が抜擢された。
緊張しぃの透であったが、堂々とした語り口で、見事にその大役を果たしたのだった。
「そんなことより、見事な言いっぷりだったじゃないか。なぁ、みんな」
会長が、今日のMVP的な活躍をした透を褒め称えた。
「いやぁ、そんなことないっス。ビビりまくりでしたよ」
いつもイジられる側の透。褒められることに慣れていないせいか、口上の時とは別人のような、いや、口上の時がいつもとは違う別人のような透だった。
「みんなも知っている通り、口上役の火門番は、代々若衆の役目だ。今だから言うけども、俺もちょっと心配ではあった。うん」
経験的にも、年齢的にも透が適役であった。
だが、知っての通り、人一倍軽い人間である透だ。焔民だけではなく、長老衆からの心配の声も少なくは無かったのも事実だった。
そんな、雑音を吹き飛ばした、立派な口上であった。
「テキトーな奴だと思ってたけど、やる時はやるなぁ」
筋肉系の聡太が、バチンと透の背中を叩いた。
「痛ぇ〜、ちょっと聡太さん。勘弁してくださいよぉ」
口ではそう言いながらも、ニヤケが止まらない透だった。
打ち上げは、いつも以上に盛り上がり、1時間はあっと言う間に過ぎていった。
後片付けも済ませ、最後は、副会長である悟の音頭で、手締めが行われ、この年の祭りごとは一通り終了した。
会員たちは、そそくさと家路に着いた。
多くの者たちの頭の中は、早く帰り、愛するパートナーとの営みしかないのかもしれない。
中には、酔っぱらって騒ぐ者もいて、完全解散には少し時間が掛かりそうだ。
時刻は、23時を回っていた。
昔からの慣習で、この町の多くが、祭りの翌日は臨時休業となる。
祭りに全精力を注ぎこみ、翌日は腑抜けになってしまい、仕事どころではなくなるからである。
が、その裏には、祭りの後の各家庭での夜の祭りに勤しむためとも言われている。
毎年この日は、町中が最も静かになるのだ。
その分、各家庭内では、艶めかしい声が木霊している。
「マジうれしぃ〜」
店のカウンターから、甲高い声が聞こえてくる。
会員たちもほとんど掃けて、残っているのは臣吾夫婦、悟夫婦と店の主である透夫婦の6人。
甲高い声の主は、ベロベロに酔った優香だった。
旦那の晴れの姿に、テンションはMAXを軽く超え、アルコールも入っていることもあり、「狂っている」に近い状態になっていた。
「だって、あのヘタレな透がぁ。ビッとしてぇ、格好良かったんですよぉ〜」
祭りの重要な一場面を、堂々とやり遂げ、多くの人から好評の声をもらっていた。
「私も、たくさんたくさん、透を褒める言葉を聞いて、もう超嬉しくて嬉しくて」
今度は一転、涙ぐみ始めた。
「透ぅ」
本人を見つけた優香は、透に抱き着いた。
「今日は、いっぱいサービスしたげるからね。いっぱいいっぱいチンポしゃぶってあげるし、おケツの穴もベロベロしちゃうんだからぁ」
周囲の眼なんか構いもせず、透にくっつき、ほっぺたにチューを連発した。
「ションベンもいっぱいかけていいからね。顔の真ん中にお願いします。臭くて汚っないのちょうだい。んーーもぉ、何なら今日は、ウンチをかけてもいいよ。優香の顔を臭いウンチまみれにしてもいいのぉん」
酔ってもいるのだろうが、完全にトランス状態になっている。
「まあまあ優香ちゃん。何をするにしても、少し酔いを醒まさなきゃ。ヤることもヤれないよ」
見るに見かねた久美が、諭すように声を掛けた。
「そぉですよねぇ。せっかくのスケベな時間ですもんねぇ、記憶がなかったら勿体ないかもぉ」
優香自身、言ったことをわかっているのかどうかは、うかがい知れないが、一先ず、この状況をなんとかしなければと、残った4人は優香を部屋に連れて行った。