カマキリ-1
夏草から朝露が流れ落ちた朝。
二匹のカマキリが交わり在っている。
人のそれと違わない程の情熱とともに。
この夫婦はスクフルとロゼ。
しっりものの妻ロゼに支えられて夫スクフルは生き延びてきた。
今日は別れの朝、最期の朝になる。
昨日の夜に時を戻そう。
スクフルはロゼに思い詰めた顔つきで話し掛けた。
「おれの寿命ももういくばくもない。ロゼ今までありがとう。愛してるよ。」
スクフルは涙を浮かべながらそっとつぶやいた。
「いきなりどうしたの?具合わるいの?」
心配そうにスクフルを気遣うロゼ。
スクフルは首を横に振りながら続けた。
「違うんだ。ロゼ。おれの子を生んでほしい。今まで君には迷惑ばかりかけてしまった。幸せにしてやれなかった。だから、最期に君の力になりたいんだ。」
ロゼは突然の提案がなんの事かしばらくわからなかったが、
はっとした顔をしてスクフルを見つめた。
「でも、そうしたら私は貴方を殺さなくてはならなくなるのよ…私にはそんなことできないわ。」
ロゼは躊躇している。
「わかっている。だけど僕ももう長くない。どっちみち死ぬのなら君の役に立って死にたいんだ。
元気な僕達の子を産んでほしい。僕の最後のわがままだよ。」
ロゼは大粒の涙を流しながらただ頷くことしかできなかった。
「最期まで悲しませてごめんよ。ロゼ。君と過ごせて幸せだった。生きる希望を持てたんだ。」
そして夜が明けた。
スクフルはロゼをきつく抱き締め、二人は初めて結ばれた。
ロゼは涙を拭いてそれに応えた。
今まで味わったことのない昂揚にロゼは次第に自分の意識を失っていった。
「サヨナラ。ロゼ。」
最後に耳に残っているのは愛すべき夫の優しい声。
本能が理性を殺した。
夢中でロゼはスクフルに齧りついた。
バラバラと
食い千切った。
そして
それを体内に取り込んだ。
スクフルは痛みに耐えながらロゼを見つめ微笑んでいた。
痛みの中、それに抵抗することもなく
それでも交わりは止まなかった。
命を懸けた最後の力で。
力が尽きるまで。
ロゼが我に還るとそれにはもうスクフルはいなかった。
ロゼは自分の行為に嘔吐し泣き叫んだ。
泣いて泣いて3日間泣き叫んだ。
3日後に声がした。
そうスクフルの。
「僕は君の中にいるよ。君は一人じゃないんだ。いつも見守っているよ。
だから、涙を拭いて
元気な赤ちゃんを産んでほしい。
ロゼ愛してるよ。」
声とともにロゼは目醒めた。
生きよう。あの人とお腹の子の為にも。
ロゼは命を受け継いだ。
これも愛のカタチ。
〜後書き〜
カマキリの習性って……… 気分わるくした人すみません。
自己犠牲。
これも究極の愛のカタチだと思いました。 hippo