普通の生活-10
海斗は自分でも何が可笑しくて笑っているのかは分からなかったが、ハハハと馬鹿笑いした。
「だよなー。どうして俺は一人で塞ぎ込んでたんだろうなー!そうだよなー。だいたい今まで散々幸代の面倒見て来たんだから、少しぐらい面倒見て貰ってもバチは当たんねーよなー!」
憎たらしいぐらいに堂々とそう言った。その恩着せがましい言葉も幸代には気持ち良く感じる。
「そんな面倒見て貰いましたっけ〜??」
「はー!?この恩知らずが♪」
「アハハ!」
幸代の笑顔を見て海斗は思う。
(こいつ、こんな笑顔も見せるのか。)
と。物凄く自然な笑顔に海斗は心が和む。
「まー、ありがとな!おかげて死の淵から戻ったような気分だよ。」
「死の淵から蹴り落としちゃえば良かったですかねー??」
「そしたら…」
「脚掴んで道連れにしてやる、ですか?♪」
「当たり!お前、良く俺の言いたい事分かったな!」
「そりゃあ付きい長いですから♪」
2人は笑い合う。海斗はこんなに自然に人と喋ったのは久しぶりのような気がした。自分を本来の自分に戻してくれたのは幸代だからだとも思ったし、同時にいつの間にか立派な人間、社会人になったんだなと思った。海斗の中で幸代がただの後輩から女として見る割合が大きくなって行くのであった。それからあの時こうだった、いやこうだったと、仕事での思い出話で盛り上がったのであった。
時間も忘れて話に花を咲かせていた2人だが、時間はいつの間にか夜22時になった。海斗から、そろそろ送って行こうか、と言われそうな雰囲気を感じた時、幸代は言った。
「海斗さん、今日…抱いてくれませんか…?」
「えっ!?」
聞き間違いか!?いや、違う…、海斗は思い切り動揺した。何かの罠かとも思った。しかし幸代は至って真面目な顔をしている。海斗は一気に緊張してしまった。
「一回だけでいいんです。私を瀬奈さんだと思って抱いて貰っても構いません。だからって彼女ヅラするつもりもありませんし彼女にしてとも言いません。今夜、泊めて下さい…。」
「さ、幸代…?」
一体どうしたんだと海斗は思った。
でなければ幸代は心が折れてしまいそうであったのだ。
自分の愛する男が他の女を愛している、それを知っていながらその愛を応援する自分に勇気が欲しい…、それが幸代が海斗にどうしても言えなかった言葉であった。
幸代はそんな気持ちで海斗に抱かれる覚悟を決めたのであった。