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THE 変人
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なぜ…-6

最後尾の車両の奥に背をつき逃げ場を失った瀬奈。近づいて来る副車掌を睨む目には憎しみが込められているようにも見える。
「あ、あなた…やっぱり新藤瀬奈さんでは…?」
副車掌が聞いた。瀬奈は少しだけ間を置いてから低い声で言う。
「だとしたら…?」
「お父様から捜索願いが出されてます。今すぐお父様の元へ帰りましょう…。」
副車掌はあまりの眼力の強さにたじろぎながらそう言った。
「戻らない…。」
はっきりと聞こえなかった副車掌は聞き直す。
「えっ??」
瀬奈は急に大きな声で怒鳴るように言った。
「過去には帰らない!!」
副車掌には意味が分からなかった。
「いえ、過去ではなくお父様の元に…」
副車掌の言葉を遮るように言葉を被せる瀬奈。
「帰らないって言ってるでしょ!?」
怒りを露わにする瀬奈に副車掌は及び腰になる。周りの乗客は一体何事かとその様子を伺っていた。唯一子供連れの母親だけが危険を察知し隣の車両へと移動して行った。

「ねぇ?」
苛ついた口調で副車掌に言う瀬奈。
「な、何でしょうか…?」
「あなたに…あなたに私の未来を奪う権利があるの!?」
何故父親の元に帰す事が瀬奈の未来を奪う事になるのか分からない副車掌。
「な、ないと思います…」
「そう!ないわ!!」
「す、すみません…」
「じゃあ何で私の邪魔をするの!?」
「邪魔をしているつもりは…」
「邪魔してんじゃん!!」
「す、すみません…」
副車掌は捜索中の女性を保護すると言う正義感から職務を遂行しているつもりだが、瀬奈からすればそれが邪魔をする行為と受け止められている事に困惑する。ややこしい案件に首を突っ込んでしまったと頭を悩ませた。しかし上司からの指示は守らなくてはいけない。副車掌は何とか瀬奈を落ち着かせようと努力する。

「いいですか?少し落ち着きましょう。出来れば座席に戻って…」
「戻らない!!私が戻るのは父の所でも、座席でも、過去でもない!!海斗の所なの!!」
「か、海斗…?」
また分からない話になり頭が混乱してきた。
「気安く海斗の名前を口にしないで!!」
「ご、ごめんなさい!!」
もはやどうしていいか分からなかった所に車掌からの連絡が入る。
「とにかく保護しろ!」
それが指示であった。事情は分からないが、保護してしまえば後は警察が何とかしてくれるだろう、もう厄介な事に関わるのはごめんだ、そう思った副車掌はとにかく瀬奈を保護してしまおうと決めた。
「申し訳ありませんが、あなたを保護します!」
そう言って距離を縮めようとした瞬間、上品そうないでたちと美しい顔をした女性が持っている物とは思えないものがバックから取り出された。
「!?」
副車掌は驚いた。それは金槌であった。それを見た乗客らは悲鳴を上げて瀬奈の近くから慌てて逃げて行った。副車掌にはそれが追い詰められた犯人が拳銃を手にして自分に抵抗しようとしている事と同等の危機感に思えたのであった。


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