他人の手-7
目を閉じる奈々の目に、あの忌々しい音が聞こえた。
「カシャ!カシャ!」
と。ドキッとして目を開ける。すると自分に向けてスマホで写真を撮る優希が見えた。
「と、撮らないで!!」
もう弱みを握らせる人間が1人でも増えるのは嫌だ。しかし抑えられている奈々にはどうする事も出来ない。焦る奈々をよそに、全身写真、顔と胸、胸のアップ写真が何枚か撮られてしまう。
「放して!!撮らないで!!」
激しく抵抗する奈々だが優希は聞く耳を持たない。岳斗も止める様子はなかった。
「へへへ、後はやっぱ、コレっスよね!」
優希は奈々の局部にスマホを寄せ性器のアップ写真を撮りまくる。
「やめて!!お願い…撮らないでっっ!!」
奈々の耳に何度もカシャ、カシャと言う音が聞こえる。優希はストレージがいっぱいになってしまうのではないかと思う程に写真を撮りまくった。
「もう撮らないで…、お願い…」
奈々は次第に弱って行った。また新たな脅迫者を作ってしまった事に気持ちが滅入ってしまう。撮り続けられる秘部の写真。もう写真をネタに脅されるのが嫌だった。
「いっぱいネタ撮れましたよ!鈴井奈々のオマンコ写真とか、マジ嬉しいし!」
見るからに嬉しそうな優希が憎たらしい。どうにかしてあのスマホを壊してしまいたい気持ちでいっぱいであった。
「てか、来週、収録で一緒っスよね?」
「えっ…?」
「ほら、ラブラブ動物大集合って番組。奈々さん司会のアシスタントっスよねぇ?」
「あ…」
ゴールデンタイムの19時から始まる人気番組だ。奈々はアシスタントとしてレギュラーで出演している。出演者までチェックしておらず、まさかその番組に優希が出るとは思ってもいなかった。
「知らなかったんだ。酷いなぁ。こっちは鈴井奈々と共演できるって楽しみにしてたのに、知らなかったなんてなぁ。」
「…」
「でもおかげて楽しみになったっスマホよ。だって動物相手にニコニコしてる鈴井奈々が、実はエロエロ女だって知っちゃったから、もうそうゆー目でしか見れないし。へへへへ」
「…」
奈々は一気に憂鬱になる。まさか優希と一緒の番組に出て顔を合わせなければならないとは思わなかった。気まずくなるのは必至だし、平静を保って収録が出来るか不安になった。すっかり気力を失った奈々を岳斗はようやく解放した。
「ちょっと便所。」
岳斗はトイレへ行った。