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和州道中記
【その他 官能小説】

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和州記 -蜂蜜ノ味--1

万年金欠の旅人である一紺と竜胆の二人は、しかし仕事をしていないわけではなかった。
万屋(なんでもや)、それが二人の仕事であった。
人探しに皿洗いや盗賊退治など、文字通り、殺し以外ならば何でも請け負う仕事である。
そして今回彼等が請け負った仕事と言うのは、所謂、運び屋。
とは言っても、怪しげな薬や人を運ぶわけではない。
頼まれものは風呂敷に包まれた高価そうな桐箱。それを運ぶだけと言う簡単な仕事だ。
五里程離れた町の富豪の屋敷まで、慎重に届けてくれとのこと。
その割りに妙に賃金が高いのが何だか胡散臭いが…二人はそんなことなどあまり気にしていない。

「暗くなって来よったな…」
変わった訛りでもって、手拭を頭に巻いた男――一紺が呟いた。
彼の言葉に暗緑の髪を結い上げた女――竜胆は地図を広げて言う。
「もう少し歩けば村がある。野宿するのは危険だから、そこで一晩休もう」
竜胆は、一紺が抱えたたいそうな風呂敷に包まれた桐の箱を見やる。
「頼むから、落とさないでくれよ」
「善処するわ」
竜胆の言葉に一紺はそう軽く答え、彼女の顔を顰めさせた。

丁度日が暮れて辺りが闇に包まれた頃、二人は村に着いた。
そしてともかく、と宿へ向かう。
小さな宿だが、豪勢にも疲れた身体を癒すための風呂があり、二人は早速その湯に浸かった。
風呂上り。良く冷えた水で喉を潤しながら、二人は部屋へ向かっていた。
「ちゃんと、持ってるよな」
「そら、勿論」
竜胆が一紺に、例のものの確認をする。彼は何度も首を縦に振って、風呂敷包みを見せた。
部屋の前に近付いたところで、一紺はふと竜胆に問うた。
「しっかし…何が入っとんのやろ?」
彼女は首を傾げ、知らないとでもいうふうに首を横に振った。
(…少しくらいなら、ええやろ)
彼は、好奇心も手伝って中身の確認に風呂敷を解き始める。
「見たらすぐに戻して置けよ」
そんな竜胆の言葉に苦笑を浮かべ、一紺は桐箱を開けた。
そこに入っていたのは、小さな壷。
板で軽く封がされてあった。
「何や、これ…」
「おい、前を見ろ。段差があるから転ぶなよ」
部屋の襖を開けた竜胆は、そこにあった段差に注意するよう一紺に言う。
箱の中身を見るのに下を向いていた一紺は、ふいに顔を上げて頷いた。
「分かっとる分かっとる…ぅッ!?」

どうして「するな」と言われたことに限って「してしまう」のだ、この男は。
一紺は注意されたばかりの段差に躓いて、前のめりに転んでしまった。
その拍子に桐箱から小さな壷が飛び出す。
それは美しく弧を描き、見事竜胆の頭の上に着地した――逆さまの、状態で。
「………………一紺」
「ひぃッ!わ、わざとやないんです〜ッ!」
睨み付ける竜胆に、一紺は叫んで何度も頭を下げる。
(まあ、一概に一紺だけが悪いとは言えないか。私の忠告も遅かった)
竜胆は溜息一つついて、頭の上に乗っかった壷を手に取った。
彼女の暗緑の髪が濡れて艶やかに光る。
「…?」
おそらくは半分程減ってしまったであろう壷の中身を見やった。
薄い金色の液体が、そこにはあった。


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