揺れる蕾(ロリータ・コンプレックス)-1
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「大きくなったねえ、だなんて、三十一歳の大人の女性に言うのは失礼かな」
気まぐれに訪れた故郷、何気ない街角。思いがけない人との再会に、失われた時を思って清爪習字(きよづめしゅうじ)は空を見上げた。
「うふふ、まあね。あの頃の私と比べれば、確かに大きくなったと言えるんでしょうけど」
藍川悠菜(あいかわゆうな)も彼と同じ方角を見た。
「……今日も居るね。あの日と同じだ」
夕暮れ近い空。星にしては大きすぎる飛翔体が、二人を見下ろしていた。形状ははっきりしない。ただ、そこに「ある」ということだけが、彼らには見えている。
「そういえば、占い師になったって聞いたけど、あれが見えるのと関係あるのかしら」
「どうかなあ」
「未来が分かるって言ってたものね。この再会も予言していたわ」
「そうだっけ? 忘れてしまったよ。あまりにも長い時間だったから」
二人はしばし、飛翔体を見つめていた。それは動かない。何もしない。彼らを見守るように、じっとそこに居るだけだ。
「……私たちが会うことを禁じられてから、もう二十二年も経ってしまったのね」
「そうだね。あの可愛らしくて憎たらしい悠菜ちゃんが、二人の子を持つお母さんになるには十分な時間だ」
「あの気弱だけれど優しかった習字お兄ちゃんが、四十二歳のオジサンになるにも十分な時間だわ」
二人は静かに見つめ合い、微笑んだ。