揺れる蕾(ロリータ・コンプレックス)-9
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「これが私の娘よ。名前は悠香(ゆうか)」
悠菜はスマホの画面を習字に向けた。
「藍川悠香(あいかわゆうか)、いい名前だ。きっと美人になる。そして、いい恋をしそうだ」
見せられた写真には、切れ長の涼やかな目をした女の子が写っていた。
「……あの日の悠菜ちゃんと同じぐらいの年頃だね」
じっと見つめ続ける習字は、ふと視線を感じて顔を上げた。悠菜が睨んでいた。口元に笑みを浮かべて。
「ダメよ、習字お兄ちゃん」
「わ、分かってるよ」
両手を上げて苦笑いする習字に、スマホの画面をスワイプして男の子の写真を見せる悠菜。
「上の子よ。悠治(ゆうじ)」
正直に言って、なんとなく冴えない。よく言えば平凡。しかも、子供なのに目元に好色な影が浮かんで見える。ちいさな女の子にイタズラしそうな。人のことは言えないがな、と習字はその感想を胸の中だけにしまっておいた。
「若かったよな、あの時は」
「ええ、特に私は若すぎたわ」
「そう、そのせいで僕らは会うことを禁じられた。でも今なら……」
真っ直ぐな視線を悠菜に向けながら、習字は一歩近づいた。
「ウソ、やめてよ、習字お兄ちゃん! 私、夫も子供もいる身よ?」
そう言っておどけてみせる悠菜をグイっと抱き寄せ、習字は耳元で囁いた。
「もういちど一緒に夢を見ないか」
悠菜は身を固くした。しかし、習字から体を離そうとはしなかった。