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エロティック・ショート・ストーリーズ
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揺れる蕾(ロリータ・コンプレックス)-4

「うふふふふっ! お尻の穴? あははっ」
 子供はどうしてシモの話になると笑うのだろう。
「してみて、習字お兄ちゃん」
 当然ながら、習字は躊躇した。相手が子供だからといって、そんな所を刺激するなんて。
「してよぉ」
「いや、あの……」
「してっ」
 イタズラっぽく目を輝かせる悠菜に押し切られるように、習字は彼女の尻の中央あたりに肘を置き、慎重に体重を掛けた。
「うひゃひゃひゃひゃっ!」
「だ、大丈夫? 悠菜ちゃん」
 悠菜が首を傾げる。
「んー、なんだかヘンな感じがするけど……イヤじゃない」
「もうやめようね」
「ダメ、もっとして」
 子供特有の好奇心だろうか。ふだん味わうことの無い刺激への興味が尽きないようだ。しかし、こんなことを続けたら、幼い少女にイタズラをしていることになりはしないだろうか。
「あんまりやったらお母さんに怒られちゃうよ」
「どうして?」
「どうしてって……ふつう女の子はこんな所を男の人には触らせないんだよ」
 悠菜は俯いて何かを考え始めた。
「お母さんには言わないから、大丈夫だよ」
「お母さんには言わないけど、お父さんには言う、とか?」
「あははっ それいいかも」
「よくないよ」
 頬を膨らませ、悠菜は尻を振った。
「してよぉ。してくれないと、お父さんに言うよ? お兄ちゃんが、私のお尻の穴、触ったって」
 唇を震わせて習字は狼狽した。冗談では無い。そんなことをされたら……。
「だからね、して」
 習字は、ふう、っと息をつき、窓の外を見た。そして、視線を固定した。
「何か見えるの?」
「うん、まあね」
 顔を上げ、悠菜も同じ方角を見た。
「あ、お兄ちゃんにもあれ、見えるんだ」
 驚いた顔で、習字は悠菜の方に振り向いた。
「そうか、悠菜ちゃんにも見えるんだね」
「うん、でも友達は誰も見えないっていうし、お母さんにその話をしたら、あんまり人に話しちゃだめよ、って言われた」
 しばし何かを考えていた習字が、やがて呟いた。
「そうか、そうなんだ」
「何が?」
 習字は悠菜の目を真っ直ぐに見つめた。
「お母さんの言うとおり、他の人には言わない方がいいよ」
 習字の真剣な眼差しに気圧されたかのように、悠菜は小さく頷いた。
「じゃ、誰にも言わないから、して」
「は?」
「お尻の穴、もっと触って」
 習字は諦めたようにため息をつき、狙いを定めて悠菜の尻に肘を入れた。
「うきゃっ」
 声を上げて悠菜が喜ぶ。
「ね、もっと下も」
「下ぁ?」
 それはすなわち、女性の最もデリケートなエリアだ。いくらなんでもそんなことは。
 実は、もみほぐし店に勤務していた頃、習字は当時交際していた女性にはそれをしたことがある。角度的に肘では無理なので、両手の親指で。丹念にもみほぐすうち、いつもは性に控えめだった彼女が、それまで見せたことが無いほどに息を荒げ、積極的に習字を求め、乱れ狂った。習字は怖くなり、それ以来ずっと封印してきた。それを九歳の子供にするなどありえない。
「悠菜ちゃん……」
 習字は居住まいを正し、冷静な声で悠菜に告げた。
「その部分はね、女の人にとって凄く大切な所なんだよ。それを簡単に男に触らせちゃったら、あとで困ることになるよ」
「ならないよ」
「なる」
「ならないっ」
 子供なりに理屈があって、それは彼女としてはスジが通っているのかもしれないが、数年後に後悔するのは目に見えている。
「ダメだよ、悠菜ちゃん」
「お父さんに言う」
「な……」
「お尻の穴、触られたって言う」
「や、ちょ……それは……」
「言うったら言うの」
 習字は焦った。が、それと同時に腹が立ってきた。可愛い姪のためだと思って言っているのに、汚い手段で責めてくるなんて。小憎らしいなんていう範囲を超えている。
「お兄ちゃん、怒ってるの?」
 上目遣いに悠菜が振り返る。年長者が負の感情を自分に対して持つことに、子供はとても敏感だ。
「……うん、少し怒ってる」
 せっかく止まっていた涙が、再び溢れそうになる。お母さんとはケンカしちゃったけど、大好きな習字お兄ちゃんはずっと私の味方だ、そう思っていたのに裏切られたような気分になったのかもしれない。
「私がワガママ言ったから? それがいけなかったのね」
 涙をいっぱいためて、嫌われまいと必死の形相をする悠菜の可愛らしさに、習字は口元が緩みそうになるのを必死に堪えた。ここは厳しい態度を崩さずにきちんと言って聞かせなければ。
「そうだよ」
「じゃあ、昨日の夜はどうして怒ってたの?」
「昨日の夜?」
 思いがけない話の展開に、習字は戸惑った。しかも、彼には心当たりがないことだった。
「怒ってないよ? 昨日は」
「ウソっ、私がぶつかった後、目を逸らしてた」
「あー、あれは……」
 何ひとつ身につけていない状態で尻餅をつき、体の全てを晒していた夕べの彼女の姿を思い出し、習字は目眩にも似た動悸を感じた。だが、言えるはずもない、そんなことは。
「ぶつかったとき、やっぱり痛かったの?」
「いや、そんなことはないよ」
「ワケ分かんない」
 そう言って悠菜はソファーに顔を埋めた。
 習字が怒っていた、と考えたのは読み間違いだが、彼に大きな感情のうねりが生じていた事は敏感に察知していたようだ。この年頃の子供は油断ならない、と習字は思った。あるいは、悠菜が特別に鋭敏なのだろうか。いずれにせよ、性欲という概念が彼女にまだなかったのは幸いだったと言えるかもしれない。
「悠菜ちゃんがね、すごく可愛かったからだよ、目を逸らしたのは」
 ガバッと顔を上げてジーっと習字を見つめる悠菜。
「それは、服を着てなかったから?」
 やっぱりこの子はするどい、と、習字は焦った。
「着てる時ももちろん可愛いよ」


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