初体験 そのあまりにも異常な あの日 その1-1
松下譲司。
彼の初体験は、彼が小学6年生の時だった。
譲司は両親と3人で暮らしていた。
譲司の家には、譲司とは20歳近く年の離れた叔母がいた。
彼女の名前は和美。
和美は譲司が生まれる前に結婚したが、残念ながら子どもには恵まれなかった。
そのせいもあってか、和美は譲司が生まれると、よく家にやってきては、不在がちな譲司の母親に代わり、ミルクをやったりおしめを換えてやったりしていた。
和美の亭主は遊び好きで、結婚当初からもめごとが絶えなかったらしい。
そんなことの相談事や愚痴をこぼすために、姉の家を頻繁に訪ねていたようだった。
そんな和美のことを、譲司は大好きだった。
はじめは、【小さいころから、いつも優しくしてくれた親戚のお姉さん】だったが、
小学生に上がったころから【叔母さん】の中に異性を感じ始め、高学年を迎えるころには、明らかに【大好きな女の人】という目で見ることがあった。
譲司の目から見ると、20歳近く年上とはいえ、30そこそこの和美は、十分に若く、そしてきれいな女性だった。
和美は譲司にとって、初恋の相手だったのかもしれない。
和美が来ると、いつもなぜかドキドキしてくる自分に、譲司自身が気づいていた。
和美が隣に座ったりすると、ドキドキを通り越して、体全体が固くなってしまう。
和美は、可愛い甥っ子に、当たり前のように顔を近づけ、時には抱きしめたりもした。
譲司が6年になった秋のこと、
揉めに揉めていた和美とその亭主の関係はいよいよ決定的となり、ふたりは離婚した。
今で言う夫によるDVもあったようで、和美は逃げるようにして家を出たのだった。
頼る親も早くに亡くし、住む家さえなくなった和美は、たった一人の姉を頼って、譲司の家に居候した。
譲司の家はそれほど豊かではなかったが、築年数がたった平屋一軒を間借りしていたので、部屋数には余裕があったのだ。
大人の事情はよくはわからなかったが、和美が一緒に住むことを知って、譲司は心の底から喜んだ。
(あの、大好きな和美ねえちゃんと一緒に暮らせるなんて)
譲司は、内心飛び上がりたいほど嬉しかった。
和美は離婚する前、亭主が半ば強制的に紹介しで働いていた店(おそらくは風俗店だったのだろうが)を辞めたため、離婚と同時に収入源も失うこととなった。
姉の、(心の傷が癒えるまで、しばらくはのんびり過ごすといいわ)という優しい言葉に甘え、和美はしばらくの間は働きに出ることをせず、昼間も家で過ごすことにした。
和美が同居を始めると、学校から帰る譲司を出迎えてくれるのは和美だった。
譲司の母親は、保険の外交をしていて、夜昼関係なく、家を空けることが多かったので、昼間でも家にいないことがあった。
契約1本を採るためには、身を削らなければならないこともあったようで、その美貌もあってか、譲司の母親の周りには常に男のうわさが絶えなかった。
父親は父親で、そんな妻のことを知ってか知らずか、帰りはいつも遅く、帰ってきても誰と口を利くでもなく、帰り道に買ってきたのだろうか、いつも同じような弁当を食べながら、冷蔵庫からビールを出し、夜遅くまで飲んでいた。
そんな生活のせいか、父親は譲司が中学に入る頃、病気で死んだ。
話が譲司が小6の時に戻る。
和美が一緒に暮らし始めて2週間ほどたった時のことだった。
譲司が帰宅しても、いつもなら「お帰り。」と声をかけてくれる和美の姿はなかった。
その代わりに、玄関に見慣れない男物の靴が置いてあった。
(誰かお客さんかな?)
そう思った譲司は、そっと足元を忍ばせ、家の中に入った。
居間には誰の姿もなかった。
(あれ?おかしいな。)
譲司は、奥の部屋の扉を開けた。
そこにも、誰の姿もなかった。
(おかしいなあ。和美ねえちゃんもいないなんて。。。)
和美の部屋は、居間の奥。
そちらに回ってみようと、振り返ってみると、廊下に何か白いものが落ちているのが見えた。
(なんだろう。)
譲司が近づいて行ってそれを取り上げてみると、それは1枚のワンピースだった。。
(ワンピース?和美、ねえちゃんの?)
その少し先には、ワイシャツとズボンが、脱いだままの状態で落ちていた。
(親父の?いや、親父はこんなシャツ、着たりしない。)
譲司は、ちょっとした探偵にでもなったような気分で推理を巡らせた。
廊下の突き当りにはトイレと風呂場がある。
(和美ねえちゃん、洗濯でもしていて、落としていったのかなあ。)
譲司の推理は、その辺りで落ち着いた。
風呂場の手前の洗面所まで来た時、譲司は思った。
(残りは、トイレか、風呂場。どちらかだ。)
譲司は、恐る恐る、まず、トイレのドアノブに手をかけた。すると、ドアはあっけないほど簡単に開いた。中を覗くと、当然、誰もいなかった。
(じゃあ、いよいよ最後の風呂場だ。)
そうは言うものの、夕方から和美が風呂に入っているとは思えなかった。ましてや、玄関に脱いである、見知らぬ男の靴。
譲司は、何とも言いようのない興奮状態だった。
子ども心に、もうこのあたりでやめておいた方がよい、というブレーキが頭の中を巡った。しかし、なんとなく始まった探偵ごっこの魅力が、そのブレーキに勝った。
譲司は、風呂場の前にある脱衣所の扉をそっと開けると、
そこには、明らかに女物の下着、そして、おそらく男物と思われる白いブリーフが散らばったまま落ちていた。
(やっぱり、ここか。)
俺は少しほっとした。だって、和美ねえちゃんがいる場所がわかったから。
でも、直ぐに思い直した。
(でも、男物のブリーフは?誰だ?あの男。。。)