妖しいアルバイト-2
女と言うものは
理性で生きるのではなく感性で生きるものかもしれない。
それはそれぞれの人によるのだろうが……。
「帰ったわ、真二郎さん」
「あっ、お帰り……いつも君恵に迷惑をかけてすまないね」
「ううん、いいのよ、今日はお金が入ったから少し贅沢できるわ」
「ほんとかい、ありがとう、楽しみだな」
君恵は真二郎が喜んでくれるのが嬉しかった。
純朴な彼は疑うことを知らない。
ましてや、好きで駆け落ちした女が
他の男に体を売っていることなど知る由もない。
「ところで、どうかしら、小説のほうは書けているの?」
「うん、なんとかね」
「そう、良かったら教えてくれると嬉しいわ、どんな内容かしら?」
「そうだね、まだ書き出しただけだけれど今までと少し違うんだ」
「そうなの、どんなのかしら?」
「今までの、純文学的なストーリーでは売れないのに気がついてね」
「あら、そうなの、真二郎さんにしては珍しいわね、それで?」
「うん、じつは君恵みたいな女性が身を崩していく内容なんだ」
「えっ……例えば?」
「うん、清楚な人妻が浮気をしていくんだよ」
「そうですか……」
君恵はどきりとした。それ以上のことは聞けなかった。
(まさか自分のことが知れてしまったのかしら)
そう思いながらも、自分の世界に入り込むと何も見えない彼だから、
おそらく彼の妄想だと君恵は理解した。
そう思ってみると、どうしてもその理由を知りたかった。
「あの真二郎さん、そのモデルの女性はあるの?」
「あ、いや、何かの本を読んでいてね、それでイメージがわいたのさ、
そう思うとイメージが膨らんできてね」
「そうですか」
それを聞いて君恵はほっとした。
自分のことが知れてしまったとは思ってはいなかったが
なぜか安心していた。
「その女性をどのように書いていくのですか?」
君恵な自分のことでないと分かると、逆に興味が湧いてきた。
「うん、女性は夫から相手にされなくなり浮気をするのだけれど、
どう展開するか、今迷っているのさ」
「あら、そうですか、面白そうね、今度読ませて下さいな」
「そうしよう、それで君恵の意見も聞きたいしね」
「ええ、楽しみにしているわ」
今まで、君恵は真二郎の書く小説をあまり知らなかった。
自分にとってあまり興味がなかったからだが、今回は違う。
生きる為に、食べる為に彼の小説は方向転換をしたらしい。