女の手紙 ・ その3-1
著名な夫の家から、書生と駆け落ちした君恵だったが
実際に生活してみると、思いもかけないことに遭遇する。
愛のない夫との生活、倦怠感に我慢ができなかった君恵だったが
生活には不自由はしていなかった。
しかし、その優雅な生活を捨ててみると様相は一変した。
駆け落ちをした名もない尾上の収入で生きていくのは苦しかった。
ニ人ともその覚悟はあったのだが、その生活も限界に来ていた。
少なくとも生きていくためには、ある程度の資金が必要になる。
それも次第に底がついてきた。
尾上は文学会では最近、多少は売り出してきたといっても、
まだまだ一般的にはあまり知られていない作家である。
出版社から支給される原稿料などもわずかなものだった。
当然に生活は苦しかった。
家出同然にして駆け落ちしてきた君恵には
頼りにするところはどこにもなかった。
同じことが尾上にも言えた。
色々と探してみても世間知らずの君恵に合う仕事はなかった。
尾上にはアルバイトと称して働きに出た君恵だったが、
世間はそんなには甘くなかった。
その時に救いの手を差し伸べたのは、
同じアパートの住人の冴子である。
しかし、その仕事はある程度の性的なことが伴うとは聞いていた。
冴子は実は保身のために君恵を紹介したのだ。
あまり世間を知らない君恵は、
その意味が深いことを知らなかった。
そのことが、それからの彼女の運命を左右するなど知る由もない。
今、君恵の前で指導と称して、唐沢という男がいる。
君恵は言われるままに下着だけの姿となり、
唐沢の服を脱がせるように言われていた。
さすがに君恵もここまでくれば、
この仕事がまともな仕事でないことは想像はできた。
だが、こうなってはいまさら戻ることができない。
死ぬ気になれば、たとえこの身体を売ってでも何とかしなければ
という焦りの気持ちがあることも事実である。
君恵を紹介した冴子は、
クラブに誰か他の女を連れてきて採用されれば、
報奨金がもらえると言うことで君恵を紹介した。
そこは、その業界では少しは名前の売れた業者であり、
いわゆる客からの要望があれば
登録している中から、希望する女を派遣すると言う斡旋業者である。
客との会話で楽しませたり、パーティーでホステスなどの要望もあるが
実質的には高級売春クラブだった。