第３章-1
子供思いの優しい母は、家では相変わらずに優しい母を演じていたが、
あの家で、二階で裸になる回数が増えていったのは皮肉である。
当然、子供達はそんな母の醜態は知らない。
ただ、敏感で早熟なエリカは、最近母が美しく女らしくなってきているのを感じ
不思議だった。
（お母さんは、誰かと恋でもしているのだろうか？）
しかし、以前よりも美しくなっていく母親の幸を、
不思議に思っていたエリカだったが、
幸に思わぬことが起こっていようとは知る由もない。
まだ小さい子供たちを抱えながら、家政婦として仕えていた幸だったが、
女として、まだ四十代の彼女の肉体は衰えていなかった。
そこの主人に見初められて、彼の妻が病に伏しているために、
彼の性的な欲求の代わりとして夜の情事の相手をさせられていく。
初めはそれを拒否していた幸だったが、
子供たちを育てるためと言う自分の言い訳を作り、
彼の欲求を受け入れてしまった。
その手当として、その家から幸がもらえる報酬は当然に増えていった。
執拗な主人の性的な欲求の相手をしているうちに、
幸はしばらく忘れていたセックスの喜びを豊満な身体で知ることになる。
別の部屋で伏しているだけの彼の妻にそれを知られる事はなかった。
次第にその家で、幸は家政婦というよりも娼婦と言っても良い関係になっていくのだ。
初め情事では恥じらいの姿を見せていたが、
幸が次第に大胆になっていくのに時間は掛からなかった。
主人の悠太郎は最近、幸の性的な反応に戸惑っていた。
好き者の男ではあるが最近は性的に目覚めた幸からも求めてきており、
その欲求が増えてきている。
悠太郎は体力的にも少し限界を感じてきた時だった。
或る日、ベッドの中で裸の幸の大きな乳房を弄りながら悠太郎は言った。
「なぁ、幸や」
「はい、旦那様」
先ほどからのセックスの余韻に浸っている幸の顔は艶かしい。
「じつは、そろそろお前にひまを出そうと思うんだが……」
「えっ？」
急な主人の思わぬ言葉に、幸は言葉を失った。
「どうしてですか、旦那様、もう幸がお嫌いになったのですか？」
幸の目は真剣だった、
前よりも生活は楽になっていたが、今ここを解雇されたら、
自分は良くても三人の子供たちを育てていくにはまだ厳しかったからだ。
また元の振り出しに戻ってしまう、
ストリップ劇場での、あの頃のような惨めな思いをしたくなかった。