暗がりで蠢くもの-2
二
「うわあっ!」
バッグの奥の肌色に触れた瞬間、私は間抜けな声を上げて尻餅をついていました。手に取った時の感触があまりにも人肌に近かったので、思わず放り投げてしまっていたのです。ぐにゃりぐにゃりと指を押し返してくる触り心地は血の通った人間の一部そのものでした。
薄汚い床に横たわる肌色の物体におそるおそる目を凝らし、まるで読経するかのように自分自身に暗示をかけました。
「大丈夫、怖くない……」
そっと立ち上がり、肌色に近づいてのぞき込んでみると、どうやらそれは女性の性欲を満足させる道具だったようで……。
「ディルドか?」
アダルトビデオや成人雑誌で見たことはありましたが、実物を見るのはこの時が初めてでした。男根をそのまま切り取ったような色と形はじつに生々しく、男である私の目をもまんまと騙したのです。
いや待てよ──と私はすぐに首をかしげなければなりませんでした。玩具と思わせておいてじつは本物の男根なのではないだろうか。妻子ある男性を独占したいと思うあまり猟奇的な行動に出てしまった女性の話をどこかで聞いたことがあります。
と、その時でした。監視カメラの映像にノイズがはしり、その直後に不気味な黒い影が横切ったのです。映像は二階の婦人服売り場の監視カメラのものでした。
あまり気は進みませんでしたが見て見ぬふりをするわけにもいかず、縮こまった心臓をどうにかこうにか奮い立たせて私は詰め所をあとにする決意をしました。
暗闇に一歩踏み出せば、否が応にも何者かの視線を感じずにはいられませんでした。そうして間もなく、先ほどの監視カメラが捉えた映像の辺りに到着すると、さっと周囲に視線をはしらせて懐中電灯であちこちを照らし、小声で呼びかけました。
「誰かいますかあ?」
けれども返ってくるのは静寂だけで、昼間の熱気の名残すら見つけられません。だとしてもさっき監視カメラの前を横切った影が何なのか、納得のいく説明がつかないのです。
まさか、女の亡霊では──そんなふうにありえないことを考えていると、どこからか恨めしいうめき声が途切れ途切れに聞こえてきたのです。
う……、ううっ……、ううう……。
「誰だっ!」
私は反射的にそう叫んでいました。声のしたほうへ神経を尖らせ、手元の灯りで視界を確保しつつ前進します。
「おい、そこに誰かいるのか?」
するとまたしても声がしたのですが、何やら様子がおかしいのです。女性の、しかも艶かしい雰囲気のある声なのです。
あ……、ん……、うう……、ふん……。
声はしだいに熱気を帯び、その頃には私の耳にもはっきりと聞こえるくらいにあえいでいました。
やがて試着室の前まで行くと、あえぎ声は閉じたカーテンの向こうから聞こえているのだとわかりました。局部を指でこねるようなねばねばした音もします。
どんな理由があるにせよ、営業時間外の店内で勝手なことをされては困ります。
いいえ、営業時間内ならもっと困りますが、とにかく私は試着室のカーテンを摘まんで息を止めると、若い女性の裸を期待して思いきりカーテンを開けたのです。