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暗がりで蠢くもの
【ホラー 官能小説】

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暗がりで蠢くもの-1




 いつになく蒸し暑い夜でした。長年勤めていた会社をリストラされた私は、やむをえず警備の仕事を斡旋してもらい、その日も夜勤の為に自宅から車で数分程度の大型商業施設に向かいました。
 時刻は丑三つ時。
 もともと百鬼夜行や霊の存在を信用していない私にとって、時給の良い夜間警備は願ったり叶ったりの仕事でしたし、なにより昔の同僚と顔を合わせる心配もありません。
「お疲れさまです」
 粗末な更衣室で制服に着替えて詰め所にいる警備員と引き継ぎをおこない、冷たい缶コーヒーを飲みながら監視カメラのモニターを見ていました。ごく稀にですが、店内に取り残された買い物客が物陰に潜んでいることがあるのです。
 しかし、物陰に潜んでいるのは人間だけとは限りません……。
「よし、と」
 腕時計に目をやり、詰め所を出た私は店内の巡回に向かいました。懐中電灯の細い灯りで暗闇を追い払うように照らしながら広いフロアを見て回るのです。
 ゴミ箱の中に不審物は入っていないか、ソファーの下に落とし物はないか、トイレの個室内に誰か隠れていないか、という具合にあらゆる方面に神経を注がないと警備の仕事は務まりません。
 案の定、二階の婦人服売り場にショルダーバッグの忘れ物がありました。いかにも若い女性が好みそうなデザインで、見た目よりも重量があったのでおそらく財布などの貴重品が入っているのだと思いました。持ち主はさぞかし困っていることでしょう。
 私はショルダーバッグの中身を確認するために一旦、詰め所に戻りました。持ち主を特定できるものが入っているかもしれないからです。
 ファスナーの金具に指をかけると、何故だか生唾が込み上げてきました。罪悪感と好奇心のごちゃ混ぜになった気持ちが胃の中で消化できずにいる──そんな感情に急かされるままバッグを開けて中を一瞥しました。
 まず、目に飛び込んできたのは花柄のハンカチでした。ラベンダー色と呼べば良いのでしょうか、鼻を利かせるまでもなく女性特有の芳香が漂ってきました。手帳や筆記具なども整理されて入っています。
「ふうっ……、ふうっ……」
 気づけば私は荒い鼻息を漏らしながら脇汗を滲ませていました。何故ならバッグの中に財布を見つけたからです。だからと言ってお金を盗むつもりはありません。
 カードを収納するポケットに車の免許証が挟まっていました。予想通り、若くて綺麗な女性の顔写真にありつけた私は年甲斐もなく興奮していました。
「ハマサキサクラコ……」
 浜崎桜子という名前と住所までは判明しました。ですが、肝心の連絡先がわからないので携帯電話を探すことにしたのです。すると……。
「うん?」
 バッグのいちばん奥まったところに不可解な肌色がのぞいていました。携帯電話でないことは明らかですが、懐中電灯の灯りを近づけてみてもそれが何なのかまったくわかりません。
 よせば良かったのに、私はその肌色の物体がどうしても気になり、べっとりと手汗をかいた右手をバッグの中に突っ込んでみたのです。


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