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暗がりで蠢くもの
【ホラー 官能小説】

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暗がりで蠢くもの-4





「こいつはしばらくおあずけだ」
 そう言って彼女の局部に突き挿さる玩具を引き抜いた私は、その大きさを目の当たりにして恐ろしくなりました。人の手首ほどもある太さはもちろん、筋肉質な胴体には膣を傷つけない程度に無数の突起が施されており、おそらく二十センチは超えているであろう長さは子宮に届いていたに違いないからです。
 近頃の若い娘はこんなものでオナニーしているのか──玩具に絡みついた大量の愛液を眺めながら私は射精したい気分になりました。使用済みの玩具を彼女の口に咥えさせ、卑猥にうごめく陰唇を左右に開いて潤んだ肉にむしゃぶりつきました。
「あああ………、ああ……、あっ……」
 浜崎桜子というその女性は発情したあえぎ声を上げ、たった二分ほどのクンニリングスだけであっけなく果てました。痙攣するその姿が見たくて私はしばらくクンニリングスを続けました。
 そうして十分が経った頃でしょうか、彼女は引きつった声で何度も絶頂を訴え、はやく入れて欲しい、子宮を精子で満たして欲しい、と言うのです。
「しょうがない淫乱女だな、まったく」
 舌に絡みつく女性器の味──それは子宮からはこばれてくる聖なる水なのか、卵巣から抽出した蜜なのか、膣から滲み出るエキスなのか、その残り香を口の中でもてあそびつつ私は彼女と交わりました。
「はっ……、んっ……、はあん……」
 もはや緊縛人形と化した一人の女性を支配する悦びに、私の頭はどんどんおかしくなっていきました。つながった腰を前後に揺するたびに感覚も麻痺していき、犯しても犯しても満たされない性欲はしだいに大きくふくらんで、涙目でアクメする彼女に受精卵を抱かせてやりたい、と悪しき心が生まれたのです。
 あんなに貧相だったはずの私のいちもつは、女の脂を纏ってぬらぬらと光り、文字通り駅弁を担ぐ格好で彼女の中を蹂躙するにつれ若返っていきます。
「すごい……、気持ち良い……、あ……」
 そんなふうに言われたらこっちだって望むところです。私は心の中で吠えました。日頃のストレスやら性欲やらを晴らすために彼女の体内に射精しました。
 時間を忘れ、職務を忘れ、目の前で身悶える美女を絶頂させることだけに熱を注いでいるうちに、いつしか私は気を失っていました。

 次に目を覚ました時、私はベッドの上でした。そこは店の従業員が利用する医務室のような部屋で、私のほかには誰もいませんでした。
 起き上がると体のあちこちが痛み、口の中がやけに生臭く感じられました。軽い頭痛もします。
 壁の時計が七時を指しているのを見て、おそらく朝の七時なのだろうと適当に考えていました。どうやら私は三時間ほど眠っていたようです。
「よう、具合いはどうだ?」
 そう言って部屋に入ってきたのは交代の警備員でした。何やら事情を知っているふうにしていたので、彼に昨夜のことをたずねてみました。
 すると彼がこう言うのです。二階の婦人服売り場で口から泡を吹いて倒れている私を発見し、急いで医務室まではこんで介抱したのだ、と。
「そうだ、あの子。髪の長い二十歳くらいの女の子がいただろう?」
 私がまくしたてると、そんな娘はどこにもいなかったと彼はきっぱり言いました。いやそんなはずはないと私が食い下がっても、彼の答えが覆ることはありませんでした。言うまでもなく、ショルダーバッグの拾得物についても心当たりがない様子でした。
「働きすぎで、きっと幻覚でも見ていたんだろう」
「うん、そうかもしれないな」
 私は無理にでも納得しようとしました。そして部屋を出ていく彼の背中を見送ろうとして、はっとしました。ちょうど彼の背中に覆い被さるようにして、黒く透けた影がべっとりと張りついていたのです。
 その影は明らかに人の形をしており、どことなく夕べの女性の輪郭に似ていると感じた私は直後に金縛りに遭いました。声を発しようとしても自分の意思ではどうすることもできないのです。
 浜崎桜子──頭の中にその名を思い浮かべた瞬間、影がゆっくりとこちらを振り返り、恨めしい表情で睨みつけてきたように見えました。憎悪と、悦楽と、誘惑とがどろどろに溶け合った危険な視線を感じたのです。
 彼が部屋を出ていくと金縛りは解けましたが、その日から三日三晩、私は原因不明の高熱にやられ、夢枕に立つ浜崎桜子というあの女性に精気を吸われ続けることになりました。

 さらに何日かして、霊感の強い知人と会う機会があったので、あの夜に私が体験した出来事を話してみました。
「そいつはムマかもしれないなあ」
 知人によれば、夢の中にあらわれて精液を吸い取る「夢魔」という女の悪霊ではないかと言うのです。
 元々は外国で言い伝えられているサキュバスなどの淫魔を指しているらしいのですが、日本に於いても似たような体験談が複数報告されており、それが夢魔の仕業なのだと彼は教えてくれました。
 男を惑わせて精液をたらふく搾り取る女の霊──もしほんとうにそんな霊がいるのだとしても、夜な夜な私の股間にまたがりに来る彼女のことを除霊しようとは少しも思っていません。
 どんなに霊感の強い能力者に忠告されようとも、私は浜崎桜子という一人の女性を誰よりも愛しているのですから。


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