女らしく【00】『ヒトと異形と始まり』-1
昔、オレの世界はとても暗かった。
オレの母はオレを生んですぐに死んでいった…
家には跡取がおらず、親父はオレを男して育てようとした。
幸か不幸か、オレには家督を継ぐには充分過ぎるほどの才能が備わっていた。
オレは幼い頃から『男らしく生きよ』と言われ続けた…
なれど、この身は女……
家は古来より闇に生き、闇を統べるモノ。
異形を使役する一族。
その一族の跡取がこのオレ…
同い年くらいの女の子達がままごとをしている間、オレは数多の武術を習い、家督を継ぐ為の辛く厳しい修行を科せられていた…
その当時、力のないオレは親父に逆らうことが出来なかった…
いつの間にか、男を演じ、気付けば口調も男になってしまっていた……
全てを呪い、全てを憎んだ。
──何故、オレは普通ではない?
──何故、オレは男として生きなくてはならぬ?
何度も、何度も訴えた…
だが、周りのヒトはそれを聞いてはくれなかった……
──本当の自分を理解して欲しい!オレは女だ!
でも、その声は誰にも届かない…
諦め、自分を偽る…
世界はまるで無限に続く暗闇…
しかし、その暗闇の中に遠慮なく、しかも土足でずかずかと踏み込んできた奴がいた……
「無理に男を演じなくてもいいじゃないか?
お前は女なんだから、女らしくしてろよ」
そいつは笑いながら言った…
──オレの気持ちなんか知らないで……
最初はそう思った…
けれど、生まれてきてその言葉をかけてくれたヒトは誰もいなかった。
うれしかった…本当の自分を見てくれた様で…
そいつはヒトではなかった。
将来、オレの式──つまり、パートナーとなるべき異形のモノ…
それからオレとそいつは兄弟の様に育った。
気付けば、オレはそいつを見ていた…
気付けば、オレはそいつに惚れていた…
それに気付いたときから、辛い修行も自ら行った。