あなたは皆と‥‥。(2)-1
昨夜‥‥。
あなたの懸念――用心は、ある意味正しかった。
「にゃあーん。お兄ちゃん、遊ぼ♡ 遊ぼ♡」
ねこみみ化した桃香がそんなふうに甘く鳴き、あなたににじり寄ってきた。そして姉の白香も、しなをつくりながら近づいてきたのだった。
(ふん――!)
口に出しこそしないものの、あなたは全身で拒否を示しながら、彼女たちに背を向け、テーブルについた。少しやりすぎかなとも思いながら、椅子を荒々しく引いて。
意地もあった。あなたは、この蒲生白香と会ってからの期間、学業のほうがはっきりとおろそかになっていた。少しではない。かなり、だった。原因は、言うまでもなく、紅香と桃香の調教に、時間と、そして頭とを奪われていたせいだ。特に、頭、のほうが大きいだろう。学校での成績は、順調に下降線をたどっていた。あなたは
蒲生白香。この巨乳女のせいなのだ。あなたはこの女と出会ってからの日々を振り返り、
(もう、こいつの誘いには乗らん‥‥!)
と、決意を固く決めようとしていたのだった。
(金輪際、だ――)
と己に言い聞かせて。
しかし――。そんなあなたをどう見たものか、背後の白香も、教育に関連する話を振ってきた。ただし、あなたのことではなく、姉妹のことであったが。
「海田くん、聞いていい? このコ――桃香――さあ、家庭教師つけたほうがいいと思うんだけど」
「ほぇ?」
予想もしていなかった妙な話の振り方に虚をつかれたあなたは、自分でも変だと思う、気の抜けた受け答えをしていた。口にはしなかったが、
(それが、俺となんの関係が‥‥?)
と、思いながら。また、弾みで思わず振り返りかけていたのだが、これは寸前で止めたのだった。
そんなあなたの態度に、しかし蒲生白香は話を続けた。妹の学業不振ぶりをとつとつと‥‥。そして、こう言ってきた。
「海田くん、やってくれない?」
桃香の家庭教師を、ということだった。
「学校の勉強の、簡単な予習復習だけでいいからさ」
なんでそうなるのか、この女の思考回路は、いつもわからない。しかし白香は、あなたのそんな葛藤などまるで意に介さない様子で、続けた。
「わたしは忙しくてできないし‥‥。このコと紅香はさ、家庭教師をやってもらうなら片桐さんがいいって言うんだけど、なんて言うか‥‥深入りしすぎちゃう予感がするのよね」
「深入り‥‥」
あなたは、おうむ返しにつぶやいた。――深入り。