あなたは皆と‥‥。(1)-1
暑さを感じ、あなたは目を覚ました。
見慣れない高級感のある木目の天井が視界に入り、一瞬、ここはどこだと思ったが、すぐ合点がいった。紅香の――蒲生三姉妹のマンションの一室、紅香と桃香の部屋だ。広い。桃香が白香の部屋を取ったと聞かされていたが、どうやら、元に戻ったようだった。昨日、あなたはまた白香に電話で呼ばれてタワーマンションを訪れ、そのまま泊まったのだった。いまこの家にはあなたと、あなたの紅香しかいなかった。
あなたはベッドの上に身を起こした。暑かった。
もう夏が来ていた。陽光が白いレースのカーテンを通し、部屋に射し込んでいるのだが、それが動いている。開かれた窓からの風が、カーテンを揺らしているのだ。
部屋には、あなたしかいなかった。女の子女の子した部屋で、クッションや勉強机たちはどちらがどちらかわからず、タンスや本棚は共同のようだった。が、ふたつのベッドは、一方はシーツやケットが質素にして清楚、もう一方はキャラクターものが揃えられていたりと、紅香用と桃香用が一目でわかった。この家へは、しばらく招かれていなかった。訪れるのは久しぶりだった。
あの桃香調教の時期、あなたは心を決め、紅香と会い、白香への疑問を言っていた。
「‥‥‥‥」
その日も、やはり雨だった。あなたは、あのデートでの雨濡れ事件での場面を思い起こさないように努力しながら(それをしたら負けになるような気がしていた――何に負けるのかはよくわからないが)真剣に、あなたの紅香に、思いの丈を伝えたのだった。
「――――‥‥」
あのときと同じお洒落な細い淡緑の傘を差しながら、紅香はしゅんとなったように、あなたの言葉に耳を傾けていたのだった‥‥。
その後あなたは、白香に呼ばれることもなくなったので、白香に伝わったのだろうと思っていた。しかし、紅香と連絡を取り合っていたあなたは、その白香が妹たちと同じようにおっぱいペットに堕とされたと聞いて、驚かされることになったのだった。主犯は、あの桃香だということだった。
そして、後日あなたは、さらに踏み込んで意見してもいた――これは後から気がついたのだが、危険を承知で白香への疑問を投げかけるのは勇気が要ったが、結果的にはあなたの心持ちを晴れさせることになっており、あなたにそんなことをする大胆さを与えていたのだった――白香調教について、あなたは、それはやめたほうがいいという意味のことを、紅香に言ったのだった。あの片桐という男がいる何やら怪しげな会社や、どこかの大金持ちの坊ちゃんが絡んでいるという話を聞いて、何かもやもやした、いやな気持ちに襲われていたということもあった(そこのところは言わなかった)。
「そうだね――。ありがとう‥‥」
電話口の向こうの紅香は、消え入りそうな声であなたにそう言った。この間の、しゅんを覚えていたあなたは聞いて胸が痛んだが、言ってよかった――言うべきことだったと、と自分に言い聞かせたのだった。