あなたは皆と‥‥。(1)-3
姉の白香は、肌の色が浅黒く変わっていた。顔も、腕も。そして、脚も。そしてまた、胸元も、だった。彼女は、いわゆる黒ギャルになっていたのだ。それも、完全な‥‥。
春に白香と入ったあの『SHARKNADO』、あそこのシーサイドをイメージした店内の場景、また彼女が以前、
「海へ行きたいな‥‥」
と洩らしていたことをあなたは思い出した。が、それにしても、絵に描いたような、完璧な日焼けだった。
(本格的な夏の到来を待ちきれず、海へ行ってきたのか‥‥)
そう思ったが、白香によるとそうではなく、街中のタンニングマシンというので焼いた、ということだった。
さて一方、これに対して妹の桃香は、黒ギャルにこそなっていなかったが、もっと変わっていた。
(こ、これは――)
人間の外見の変化の度合い、というものは数値化できるものではないが、無理にするならば、その数値は確実に白香以上であった。また、この妹の場合、「変わっていた」といっても、「変化」と同時に「変」になっていた。さすがに、これが日常的な姿だとはあなたも思わなかったが――。
彼女は、ロリ少女・蒲生桃香は、黒に近い濃紺の猫の被り物で、ねこみみ少女と化していたのだった。顔に、たぶんマジックだろう、左右三本ずつのヒゲが描いてあった。
可愛いと言えば言えなくもないが、
(なんだかアホの子みたいだ‥‥)
とあなたは思った。――逆も思ったが。
黒ギャルとねこみみ少女は、舌なめずりこそしていないものの、まるで獲物を自分たちのテリトリーに引き入れることに成功した山猫の如く、両眼を爛々と輝かせていた。
「にゃおおー」
ねこみみ少女が、思いきり甘え声で鳴いたのだった‥‥。
――紅香が洗濯物を干し終え、リビングに戻ってきた。彼女はあなたの視線に気がつくと、
(見てたの‥‥?)
というように、戸惑いながらもはにかんだ笑顔を見せた。
「おはよう、海田くん。――よく眠れた?」
そのなんでもない口調には、しかし、あなたへの愛情が込められていた。
(ああ、幸せだ‥‥)
あなたは、しみじみそう思った。
彼女はコーヒーを淹れてくれようとしたが、あなたがいいという意思表示をすると、何か心得たように、あなたがいままで居た自分の部屋へと、あなたを誘った。そして、あなたが部屋に入ると、
「わたし、着替えてくるね」
と言い、自分は部屋から出て行ったのだった。