あなたは皆と‥‥。(1)-2
リビングに出ると、そこにもガラス戸から夏の陽光が射していた。室内にいてもまぶしいほどだった。そのまばゆい光のなか、あなたの紅香はベランダで洗濯物を干していた。
広いリビングは、以前あなたが訪れたときと、ほとんど変わっていないようだった。ほとんど、というのは、あの高椅子がなくなっており、代わりに、というわけでもないだろうが、隅に、初めて見る腰の高さほどの台があったのだ。シンプルなデザインのその台の上には、これも初めて見る赤い花が印象的な、細高い花瓶が置かれていた。
「アマリリスっていうの、それ」
昨夜、紅香はそう教えてくれた。紅香の将来の夢は花屋さんだと、あなたは聞いていた。あなたは、花に関する知識は全然といっていいほど持ち合わせていない。初デートのとき、ベーカリーショップからさらにフラワーショップに行く予定だったことを思い出したあなたは、さすが言うだけあって知識を持っていると、彼女に感心していた。
(ああ、平和だ‥‥)
あなたはリビングで、これまでの日々を、また、その昨夜の出来事を振り返り、しみじみと感慨に耽ったのだった。
しかし――といってよいのか――ベランダの紅香は、濃いめの空色のミニスカをはいていた。パンティーが見えそうな‥‥。
(あ‥‥)
煩悩に捉われていたあなたは、そのミニスカが桃香や白香とおそろいのものであることに気がつくのに、数秒を要した。上は濃い緑地のTシャツ、その上にエプロンを着けていた。Tシャツは厚手の生地のものらしく、残念ながらブラジャーのラインは見えない。少なくとも、この距離では。
しかし、その胸の豊かな隆起は、はっきりと見て取れた。春のあの日と同じく、エプロンの華やかな生地との間に、しっかりと隙間を作っていた。そこには、幅こそわずかなものの、妖しい薄暗がりが形成されていた‥‥。
いま、この家にはあなたと紅香のふたりだけ。白香、桃香は不在だった。
だが、昨夜あなたが到着したときには、逆だった。紅香は居らず、代わりにと言っては悪いが、白香と桃香、あの悪ノリ姉妹だけが、あなたを迎えたのだった。
待ち構えていたという表現が的確かもしれない。悪戯な――蠱惑的な――目つきのふたり曰く、紅香は他所にいるということだった。
(――また騙された‥‥)
それを聞いたあなたは、後悔に襲われたのだった。頭を抱えたくなった。白香は、電話では、紅香はいないとは言わなかった。いる、とも言わなかったのだが――。
(――いないなら、いないと言うのが、普通だろ‥‥!)
あなたは怒りに襲われながらも、いつになく愛想のいい白香と桃香に、なかば強引に蒲生家のリビングへ連れ込まれたのだった。
ふたりが言うには、紅香は夜遅くに戻ってくるということだった。が、それを聞いても、
(信じられるか――)
と、思うあなたであった。
よく考えれば、そこでそんな嘘をつくメリットは彼女たちにもないのだが――少なくとも、その時点であなたが知り得る限りでは――そのときのあなたは、そういう思いで頭がいっぱいになってしまっていたのだった。なにしろ、これまでの日々があるのだから。
(この狂姉妹が、なんの策も弄することなく行動するわけがないんだ。特に――白香のほうは‥‥!)
あなたは用心せねばと思いつつ、その白香と桃香から、目が離せないでいた。なぜなら、彼女たちは、ルックスが変化していたのだ。大きく――‥‥。その驚きもあり、あなたはこのリビングから、そしてこの家から脱出することも含めた冷静な判断を、下せなかったのだ。