悪夢の中で-1
一筋の光も届かない漆黒の闇の中。
無限に続く洞窟のようなその場所を、佐伯アイはふらりふらりと頼りない足取りでさまよい続けていた。
これが現実ではなく夢だということだけは、なんとなくわかっている。
自分がどうしてこんなところにいるのか、どこから来たのか、どこまで行くのか、ほかにはっきりしていることはひとつもない。
何もない、誰もいない。
こんな夢、早く覚めればいいのに。
奥へ進めば進むほど現実との境があいまいになり、万が一これが現実の世界だったらと思うと寒気がした。
暗くてさびしい。
もう帰りたい。
出口はどこにあるの。
ねえ、誰か。
もう前へ進む気力もなくなりその場に座り込みそうになった瞬間、暗闇の先にぼんやりとした明かりが見えた。
電気とも蝋燭の炎とも違う、夏の夜の蛍よりもずっと頼りない光。
あれは……?
もしかしたら出口かもしれない。
一縷の望みを託しつつ駆け寄ってみると、光は洞窟の天井部分と壁面から地面までをぐるりと囲むように生えた苔のような物体から漏れ出ているようだった。
毒々しい赤色や緑色、暗い青色、黄色にピンク。
まるで絵の具を散らしたように色とりどりの苔は凸凹とした岩肌全体に点在し、中にはドロリとしたゼリー状の固まりが混じっている部分もある。
苔の一部は、ときどき動いているようにも見える。
なんなの、これ。
悪い予感がする。
背筋がぞわぞわとして落ち着かない。
こんなところ早く出なくちゃ。
踵を返そうとした瞬間。
アイは視線の先にあるものを見て、凍りついたようにその場から動くことができなくなった。