桃香語り(6)-2
「――桃香、わたしがいいというまで、そこから出ちゃダメよ。――ベランダにもね‥‥。窓を開ける音がしたり、そのドアの鍵がちょっとでも鳴ったら、お仕置きするわよ。‥‥本、気、でね――」
いいも悪いもありません。わたしは、
「はぁーい」
と、生返事をしました。直後に、ドアに向かって舌を出して。
そのドアの向こうからは、
「お姉ちゃん、あんまり桃香にきつく当たりすぎよ‥‥」
「――紅香は黙ってて‥‥!」
という、ふたりのやりとりの後、
「‥‥桃香あなた、わたしの――わたしたちの妹にしては、バカすぎなのよ。そこでしばらく、身長計でもふいて、反省してなさい」
と、怒りに代わった嘲りの声を最後に、わたしへの白香お姉ちゃんの声は聞こえなくなりました。
やがて――。
「ああっ、い、いやあっ。――わたしのおっぱいが、こんなにいやらしいなんて‥‥」
という、紅香お姉ちゃんの嬌声交じりの言葉が、聞こえてくるようになりました。どうやら、調教を再開したようです。そして白香お姉ちゃんは、この部屋とのドアから離れた位置に陣取ったのか、声をひそめているのか、とにかくわたしに声が聞こえにくいように、しているようでした。
わたしはといえば、舌を出す元気もなくなり、ひとりさみしく、言われたとおりに身長計をタオルでふいていました。が。
(うう‥‥)
情けないやら悔しいやら、本当に涙があふれてきていました。
「あっ、あっ、ああ‥‥! ――おっ、おっ、お姉ちゃんっ‥‥! そ、そんな恥ずかしいこと、紅香にさせないでええ‥‥」
リビングからはそれから、紅香お姉ちゃんのなまめかしい声が聞こえ続けました。そして、わたしが呼ばれる気配は、まったくありませんでした。
まったく、です。わたしはひとりぼっち。完全に仲間はずれなのでした。
(ずるいよ、白香お姉ちゃん‥‥。わたしだって、参加したいよ――!)
タオルはあくまで身長計用に使って、涙を手の甲でぬぐいながら、わたしは怒りの炎をめらめらと燃やしていました‥‥。
‥‥ふと顔を上げると――。
青いシートに乗った白い身長計が、そんなおまえを手助けしてやる、と言わんばかりに目の前にたたずんでいました。まるで、いけにえの女体を待つ、悪魔の機械みたいに‥‥。
(‥‥‥‥)
そしてまたわたしは、部屋の隅を見つめたのでした。布を被せた口が広い瓶を。わたしは立ち上がり、白香お姉ちゃんの命令で被せさせられたその紫の布を、取り払ったのでした。
大丈夫。わたしのあのコは、ちゃんとそこにいました。動いていました。