「十円玉」-1
「こっくりさんこっくりさん……」
日もすっかり暮れた午後七時。
「最近起こっている事件の犯人は誰?」
自分の人差し指の先にある十円玉をじっと見つめる女生徒と、その女生徒を見つめ続ける男生徒。
ゆっくりと銅貨が移動を開始した。
「ねえ、小沢君」
そう声を掛けられたのが部活後の事。
「こっくりさん、やってみない?」
話し掛けてきたのは、俺が片想い驀進中の黒木さん。
「もしかしたらこの前の事件の犯人、分かるかもしれないよ」
実は過去に一度だけこっくりさんをやったことがある。真夏の正午、サウナ化した教室の中で二十分程粘ったけど、結局十円玉は動かなかった。
だからこっくりさんなんて、今じゃ小指の爪の垢ほども信じていない。それでも直ぐに頷いたのは、彼女と指が触れ合ってドキッ! みたいなのを期待してしまったから。
道具は黒木さんが用意してくれた。十円玉一つとルーズリーフ一枚。
紙には鳥居に見立てた記号と、女の子らしい丸っこい字ではい、いいえとかあいうえおが書かれていた。
鳥居の上に十円玉を置いて、その上に人差し指を乗せた彼女。
後に続いて人差し指を置いた時、指先が軽く触れてしまった。ああ、すべすべしてる。
「いい? 絶対に指を離しちゃダメだよ」
彼女の言葉に頷く。
離せと言われても絶対離さない。
「こっくりさん、いらっしゃいませ」
黒木さんがそう言った。反応無し。
「こっくりさん、いらっしゃいませ」
黒木さんがもう一度言った。
このまま動かなかったら彼女が可哀相だから、そろそろ自分が操ってやろうか。そう思った瞬間、指に全く力を入れていないのに、十円玉がまるで意思を持ったかのようにゆっくりと鳥居の周りを回りだした。
黒木さんの顔をじっと見つめる。彼女の表情は真剣そのものだ。彼女が動かしてるわけがない。当たり前だけど俺も動かしていない。それじゃあ本当にこっくりさんが乗りうつってるのか?
「こっくりさん、いらっしゃいませ」
黒木さんの真似をしたわけじゃない。ただ自然にその言葉が口から発せられていた。
十円玉は鳥居の真ん中で静止した。