「十円玉」-2
「こっくりさん、明日の天気は晴れですか?」
黒木さんが尋ねる。
直後、十円玉が移動を始め『いいえ』の上で止まった。
明日は雨か。久しぶりに部活が休みになるな。
「こっくりさん、小沢君の好きな人は誰?」
なんて事を聞いてるんですか、貴女は。
人差し指に思いっ切り力を入れて、十円が動かないようにした。それなのに移動を始めた黒ずんだ銅貨。
く・ろ・きの順に動く。
ばれてしまった。
「小沢君って私のことが好きだったんだ」
しかも全く興味なさげなご様子。
非常にショック。せめて何か感想をくれるとかの対応が欲しかった。
「こっくりさんこっくりさん……最近起こっている事件の犯人は誰?」
何でもいいから別の話題にしたかった。だから取りあえず、事件の事を聞いてみた。あまり興味はなかったんだけど、他に思い付かなかったから。
教室の中は真っ暗だ。電気を点けていないのに、なぜか文字と十円玉だけははっきりと見える。
さっきのは強制的に告らさせられたようなものだから、恥ずかしくて黒木さんの顔を見れない。俯いたまま忌々しい銅貨を睨み続けるほかなかった。
何分経ったのだろう。
突然十円玉が動き始めた。
わ行の一段目、た行の一段目、動きを止めたのはさ行の二段目。
わたし? こっくりさんが殺したというのだろうか。
誰も尋ねていないのにも関わらず、十円玉が勝手に動き始めた。
『はなしちゃいけないっていったのにゆびをはなしたから』
はっと顔を上げる。
笑っていた。
無邪気な童女のように、とても楽しそうに笑っていた。
急にこの場から逃げ出したくなった。なんでもいいからこの場から離れたくなった。
いや、違う。十円玉だ。
この硬貨から逃げたかったんだ。この銅貨から離れたかったんだ。
怖い。訳も分からず、一見何の変哲もない十円玉が怖ろしく感じられた。
一瞬、微かだが鈍い光を発したような気がした。
「貴方は離さないのね」
ぽつりと彼女が呟いた。
『おまえとはこれからもなかよくやっていけそうだよ』
十円玉が、紙の上を軽快に滑る。や行の一番下で止まった時、今度は黒ずんだ銅貨がはっきりと光を放った。