桃香語り(4)-3
といっても、白香お姉ちゃんに対して、こんなことばかり思っていたわけではありません。
もっと複雑な想いも、当然あります。自分でも認めたくないような‥‥‥‥。
つい昨日のことです。
学校帰り、わたしは街で白香お姉ちゃんを見かけたのです。ちょうど、家で使うコーヒーの豆や何かをお姉ちゃんたちがよく買いに行く、『スカーレッド』というお店の近くでした。
そのあたりは本来、わたしの通学路ではありません。が、昨日のわたしは、友達と一緒に帰り、別れて、普段とは違う遠まわりなそこを歩いていたのでした。そして、コミュニティバスの停留所のあたりで、本屋さんへと入ってゆく、清蘭学院の制服姿の白香お姉ちゃんを見つけたのでした。
「お姉ちゃん‥‥」
あたりまえかもしれませんが、その様子は、街なかを歩いているごく普通の女子校生となんら変わりませんでした。巨乳の、ですが。わたしはそれで、ヘンな気持ちになったのでした。
(うちではあんなに変態なのに‥‥。女王さま気どりでわたしや紅香お姉ちゃんのおっぱいを、モミモミちゅばちゅば、好き放題にしてるくせに‥‥!)
と。
気になったわたしは、お姉ちゃんの後を追って、その本屋さんに入ったのでした。
(街なかで、制服で、あんなおっぱい揺らして‥‥! 男の人、大変だよ。――ほらほら、いますれちがった人、ちらっと見た! あ‥‥ほら、あの店員さんも‥‥!)
広めのその本屋さんのなかを、お姉ちゃんに見つからないように位置取りすることに全力を注ぎながら、わたしは正義感に――かどうかはわかりませんが――メラメラ燃えていました。
(みなさん、見ててくださいね‥‥。この蒲生桃香が、いまにこのけしからん爆乳に、たぁーっぷりお仕置きしてあげますから‥‥)
お姉ちゃんは、ファッション雑誌のコーナーに立ち止まり、そこで一冊をぱらぱらめくった後、今度は学習参考書のコーナーに向かい、参考書を選びはじめました。
(‥‥‥‥)
認めたくはありませんが、さすがは白香お姉ちゃんです。ファッション雑誌のほうは興味深げながらそれでも何かを研究するような感じだし、参考書選びはとても真剣に、それ自体が何かの勉強ででもあるかのように慎重に考えながらやっているのが、見た目にもわかりました。
マンガやライトノベルといったコーナーは、最初から眼中にないようでした。同じ本屋さんに入るでも、わたしとはぜんぜん違いました。
(ううう〜‥‥)
わたしは、劣等感に襲われてしまい、その必要もないのに、逃げるようにその本屋さんから立ち去ったのでした――‥‥。
白香お姉ちゃんは、家では変態ですが外では――たぶん学校でも――立派な態度のオトナで、わたしときたら家でも学校でもお馬鹿で、おっぱいのことばかり考えているアホの子、のように思えてしまったのです。
(でも‥‥でも――!)
昨日、なぜだかあふれてきた悔し涙をぬぐいながら、それでも、
(やるよ‥‥。やるんだよ、桃香‥‥!)
と弱虫の自分に言い聞かせて、わたしは街の歩道を歩いたのでした。車やコミュニティバスが、どんどん横を追い抜いていっていきました‥‥。