桃香語り(2)-1
(く‥‥!)
お姉ちゃんたちにはともかく、コドモの幸也にまで軽く見られてはたまりません。これからのことにも支障が出るというものです。わたしは本題に戻り、幸也にプレッシャーをかけることにしました。幸也はお坊ちゃんですから、これまで、なんでも好きに選べてこれた立場でしょう。しかし、わたしのこれはそうではない、ということを、わからせる必要があるのです。
(選ぶのは、あなたじゃなくなて、わたしのほうだよ‥‥)
と、顔に出しながら――。
「ぶっちゃけわたしは、幸也じゃなくても、誰でもいいんだよ。秘密さえ守ってくれる人なら。そして、変なことを考えない人ならね」
わたしの言い方は、少し早口になっていたかもしれません。実はわたしは、言う台詞をあらかじめ準備しておいてきていました。白香お姉ちゃんが書いて捨てたらしい紙を、あるときゴミ箱で見つけ、拾っていたのです。メモ書きのようなものでしたが、そこには、男をおっぱい調教へ誘うときの文句が、お姉ちゃんの字で書き連ねられていました。
(海田お兄ちゃんを、こう言って口説いたんだ‥‥)
そう、思いました。そのときの光景が、目に浮かぶようでした。
(もしかして、この紙を見て、練習してたのかな?)
あの、嫌味なくらいにふくらんだJカップの胸の前にこの小さな紙を持って、決めた台詞を読みあげている白香お姉ちゃん――その姿がまぶたに浮かんできて、わたしはひとり吹き出してしまいました。
(ぷくく、なんか可愛い‥‥)
万事抜かりなくことを進める悪の魔女のように見えたお姉ちゃんの、意外な一面が見えたのが、おかしかったのです。そしてそれはすぐに、お姉ちゃん愛用の、
(あのおしゃれなピンクの手帳には、ナニが書いてあるんだろ‥‥)
という考えへと、発展しました。
(オとしたら、見てみようっと‥‥!)
わたしはそのとき、きっとニマニマしながら、その紙をゴミ箱に戻したのでした。
(乳ペット――いや、おっぱい奴隷に‥‥)
――もっとも、その直後に、わたしのほうが騙されてあの研究室に連れて行かれ、オとされてしまったのですが。
(‥‥‥‥!)
わたしは、あの日と、その後のカラダをいいようにむさぼられてしまった日々とを思い出し、復讐の炎を燃やしました。
(仕返ししちゃうよ‥‥? そしてあの手帳の中身、見せてもらうよ‥‥)
心中にその黒い火を感じながら、そのとっかかりとなる幸也ろうらくのために、自分なりにアレンジした元はお姉ちゃんの言葉を、彼の前に並べました。まず、自分のペースに持ち込むのです(紙には台詞だけでなく、[ペース]というふうに四角で囲ってあるところもあって、なおさら笑えました。ここで自分のペースに持ち込む、ということだとわかったからです)。
細かい部分は話さずに、紅香お姉ちゃん調教の話もしました。自分の話が本当のことだと思わせて、そして幸也の妄想を掻き立てて、同時に、彼が他人に話しちゃった場合はかわせる、ギリギリのラインを狙って――自分が調教されたことは、恥ずかしいので言いませんでした。