桃香語り(1)-2
「幸也、ちょっといい?」
わたしが教室で幸也に声をかけたのは、六月の下じゅんでした。
午後。雨が降っていて、教室の電灯がついていました。
「え? う、うん‥‥」
彼は、小さな声で答えました。
幸也は、何不自由なく育てられた東島財団のお坊ちゃんですが、クラスでは普通の男子です。とはいえ、静かで、腕力もなさそうな雰囲気にも関わらずいじめられたりしないのは、やっぱりバックの存在があるからだとわたしは思っています。うちの学園全体のスポンサー、東島グループ――。
(わたしも、使わせてもらおっと‥‥)
わたしは、白香お姉ちゃんの
「お願いがあるんだけど」
計画の実行には、幸也を味方にする必要があります。わたしのクラスメートにして、使いきれないほどのお金を持っている、大金持ちの本物のお坊ちゃん。スポンサーとして、これほどのうってつけはいません。
うちの学校は明るい造りになっていて、ひそひそ話に向く薄暗がりなどないに等しいのですが、別に内緒話ができないわけじゃありません。ふたりきりで幸也と話してる図は目立つけれど、ある程度はしかたないところです。わたしは彼を連れて廊下を、階段を、歩きながら、彼を話に引き込んでいきました。
何不自由なく、としましたが、わたしは、彼が実は、あるものに飢えていることを知っています。
噂というほどでもありませんが、校内でたまに語られる話(なんといっても彼はスポンサーの息子なので、いろいろささやかれるのです)、片桐さんをはじめとするあの研究室の人たちの話、そして白香お姉ちゃんからの話‥‥。それらを総合して、わたしはある予測を立てていました。彼、幸也を観察し、さらに情報を収集してゆくにつれて、その予測は正しいことがわかってきました。
ふたつ、あります。
ひとつは、彼があの海田お兄ちゃん同様、巨乳好きだということです。
(――か、片桐さんはどうなのかな‥‥――ま、ま、いまは横に置いておいて‥‥)
わたしは自分で、おっぱいを突き出すようにしながら幸也の前を通り過ぎたり、いわゆる胸チラ――彼の前でしゃがんで、制服の胸元からおっぱいが見えるシチュエーションを作ったりして、確かめてみました。白香お姉ちゃんの言うとおりでした。
もうひとつは、彼は、幼い頃ママと別れ、よく言う母親の愛情に飢えて育った、ということです。ある意味、わたしたち蒲生三姉妹と似ているかもしれません。
彼は、甘えたいのです。自分を優しく包んでくれるお姉さんタイプの女性に。それはおそらく、巨乳であればあるほど、爆乳であればあるほど、いいのでしょう。
わたしは、その条件にぴったり合う人をひとり、知っています。よーく。
幸也にその