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こんな時間にかかってくる電話なんて、ろくなもんじゃない。
風呂上がりの濡れた髪をバスタオルで雑に拭き取りながら、壁に掛けられた時計を見れば、すでに日付を跨いでいた。
もし、彼女というものがいれば、こんな時間の電話でもラブコールだろうと、尻尾フリフリスマホを手に取るだろうが、あいにく俺は彼女いない歴を去年の冬以来、着々と更新中だ。
だからこそこんな変な時間の電話にビビっていた。
頭に浮かぶのは実家で暮らす家族のこと。
こないだ母親から、じいちゃんが入院することになったと聞かされた時のことを思い出していた。
タバコをなかなかやめられないじいちゃんが、湿った咳をするようになったので、なんとなしに病院に行ってみたら、あれよあれよという間に入院することになったのだ。
どうやら肺炎になっていたらしく、しばらく入院という処置になった、というわけだ。
だから俺がこんな時間に鳴る電話に神経を尖らせるのも無理はないのだ。
できればスルーしたい。
しかし、テーブルの上のそれは、俺の胸の内なんて御構い無しに存在を主張し続けている。
ほっとけばそのうち切れるだろうと思っていた電話は、一向に諦めることがなさそうだった。
それにとうとう根負けした俺は、バスタオルを床に放り投げて、ようやくスマホを手に取ると。
「……なんだ」
意気込んで取ったそれの画面に表示されていたのは非通知の文字だった。
こんな時間の非通知の着信だってろくなもんじゃないってのは、よく考えたらわかることだが、とりあえず実家からの着信でないってだけで一気に気が抜けた。
だから、いつもの俺なら非通知の電話なんて無視するはずが、その電話に出てしまったのは、本当に油断していたからだったのだ。