狂【疑心】-2
『何かあった?』
心配そうな顔で俺を覗き込む。
『あ、いや… 緊張してるだけっすよ』
紡ぎ出た言葉に全く説得力はない。
彼女は少し寂しそうに笑った。
『本当に緊張してるだけならいいの。いつもの隆士くんらしくないから心配で』
胸がザワザワと騒ぐ。
『いつもの俺って?』
彼女はニコッと笑うと
『元気で 口は悪いけど実は優しくて どんな人の話もちゃんと聞いてくれるし―』
胸騒ぎはより強くなる。
『よく… 知ってるんですね』
彼女は少し頬を染め 俺の目を真っすぐ見つめる。
『だって 私 いつも見てるもの』
胸のザワつきがテレビのノイズ音の様に大きく耳につく。
頭皮から汗が滲みだす。
『私…隆士くんのこと…』『ぅわぁああぁあああ!』
自分でも驚く程 大声で叫んでいた。
目の前の彼女も驚いて目を丸くしたまま静止している。
周りの客の視線も痛い。
『す すいません。俺、やっぱ今日は帰ります。』
状況が掴めないままただオロオロとうろたえる彼女に深く頭を下げ コーヒー代を置いて店を出た。
『何やってんだ俺は』
部屋に戻ってから自己嫌悪に陥る。
でも『姉さんかもしれない。』
そう思ってしまった。感じてしまった。
俺の目はもう疑いの色しか映し出さない。
コンコン。
『隆士』
ガチャリと開いたドアから母親が顔を出す。
『なんだよ』
母親は心配そうな顔をしている。
『おまえ なんか最近変だよ。なんかあったの?』
『うるせーな。関係ねーだろ』
意味もなくイライラする。
『ならいいけど…。これ おまえ宛に届いてたよ』
差し出された白い封筒にはワープロ書体の無機質な俺の名前が書かれていた。
『誰だか書いてないんだけど 切手がないからわざわざうちに来て入れてったみたいだね』
そう言ってから『あんまり心配かけないでよ』と念を押し 母親は階下へ降りていった。