呼吸を止めて…-2
「…まだ、怒ってます?」
「…別に。」
申し訳なさそうな彼女には目もくれずにそっけなく答える。
「だって、あんなに怖がるだなんて思わなくて…」
「怖がってねぇって!!」
ころころと笑う彼女からは、さっきのような異質さは微塵にも感じられなかった。
「じゃあ、また」
そう云って車に乗り込む。
茶化すように笑いながら「ちゃんとトンネルで、息、止めてくださいね〜」という彼女の言葉を適当に聞き流しながら、エンジンかける。
ミラーに写る彼女を一瞥するとゆっくりと車を走らせた。
―1週間後―
『もしもし、小夜ちゃん?』
裕介先輩の友人という人からの電話をマニキュアを塗りながら、何となく聞いていた。
『…裕介が、小夜ちゃんを送ってった直後から行方がわからないんだ…』
車は、あのトンネルを出てすぐの空き地に放置されていたが、肝心の本人だけが見当たらないらしい。
車内からは大量の血痕が見つかっており、事件性が極めて高いのだと云う。
私は、彼の質問に簡潔に答えると電話を切った。
「だから言ったのに…」
携帯をベッドの上に放り投げ、マニキュアを塗る手を再開させる。
それは血の様に鮮やかな赤だった。
END