白香語り(8)-1
(会ってた、でしょ‥‥!)
そう、あの日――電話をする音はしなかったから、おそらくメールで連絡しあったのだろう――ふたりは会っていた。密会していたのだ。
わたしは、ふたりの会話を聞いたのだ。後から、だが。
家の盗聴器の調子がいいことを、わたしは研究室の片桐氏に、報告していた。あそこを経由して入手した以上、そういうこともしなければならなかった。それが、大人の社会の仕組みだ。
そのときわたしは同時に、より小型のものを所望していたのだった。そして、前のよりも時間はかかったが、それも入手していた。やはり、格安の価格で。桃香を催淫装置にかけた際、片桐氏から手渡されたビニール袋に無造作に入っていたのが、それだ。その小型盗聴器を、テストも兼ねて、紅香に渡したお財布に仕込んでおいたのだ。そして、超小型といっていいそれが発信し、録音されたものを、夜に聞いてみたのだ。妹たちが寝静まった後だったが、念のためヘッドホンをして。
音質は悪く(もともと、音質には期待しないでねと言われていた)、財布の奥に忍ばせておいたこともあって、会話の内容までは確認できなかった。が、確かに、紅香と、海田くんの声が録音されていた。声紋分析ができる装置があるわけではないが、わたしが聞き間違えるはずがない。ふたりは、会話をしていた。電話ではなく、直接会っての会話だということも、判断できた。
場所までは特定できなかった。が、『SCARLET』でコーヒー豆を買ってからの帰り道で、一時かなりしていた車の音がしなくなって、しばらく経ってからだった。そして、紅香は、その会話が終わってから数分で帰ってきた。だから、会っていたのは、このマンションの近くではないかと、わたしは推測――推理した。住宅街の路上か、あるいは、眼下に見えるあの公園じゃないかと。
(発信器も、片桐さんにおねだりしておこうか‥‥)
わたしは、そうも思う。場所も特定できるように――。しかしそれは、時間と、そして、普通に手に入れるよりは安いとはいえお金がかかるということは、わかっていた。
紅香は、わたしに嘘をついた。その裏切り行為は、許すべきではないだろう。海田くんも、同様だ。わたしの目を盗んで、いい度胸だ。彼にそんな勇気があるとは、ちょっと計算外だった。
(ま、わたしの“耳”までは盗めなかったわけだけどね――お生憎さま‥‥)
紅香が、言いよどんだ後に「会ってない」という言い方をしたのは、電話やメールは、わたしがそうしようと思えばすぐ調べられ、嘘をつきとおせないことに思い至ったからだろう。紅香は、そういう回転はわたし並に速い。ただ、そのときは、わたしが一枚上手だったというだけの話だ。
「‥‥‥‥」