白香語り(8)-2
わたしは、そのときは詰問しなかった。疑義の表情も、見せない努力をした。わたしに隠し事をしようとしたことは許せなかったし、これをネタに再び紅香を堕とし、お仕置きしてやることも選択肢としては浮かんだが、やはり、いまは桃香の調教中であることを思い起こし、その場は放置しておいたのだった。王国の建設は、粘り強く行なわなくてはならない。
「王国」は、もちろん
「女王」とはもちろん、このわたしだ。
(多くのおっぱいペット――いや、乳奴隷にかしずかれる、女王さま‥‥)
幼い頃からの夢、それはいつしか、「日常」という名のつまらない、しかし圧倒的な現実に食い潰されていった。そして長ずるにつれ、わたしも、人並みにと言ってよいのか、漫画家、あるいは映像作家という、「現実的な」夢を持つに至った。「王国」や「女王」は、コドモっぽい夢だったと忘れるように努めた。そして、実際に忘れていったのだった。
しかしやがて、それらの職業に就くという夢もまた、実現には大きな困難が伴うことを、わたしは知るようになった。夜、自室でひとり、自分の作品を見ていると、才能の欠如が痛感できた。
(悔しい――!)
本当に悔しかった。だけど。
(悲しいけれど、これが現実でしょ、白香‥‥)
わたしの内の
「運」。わたしはこの言葉が嫌いだ。
そんな、計算で答が出せないあやふやなものに、大事な人生を賭けられるわけがない。
(まして、わたしは妹たちを――この蒲生家を、背負っているのだから‥‥)
そんなわたしが、しかしここへ来て、新たな夢を抱くようになったのだった。ここ、ほんの半年ほどで。ある道具の存在を知ることによって‥‥。人生なんて、どうなるか、わからないものだ。
「女王」。まだ茫漠としているが、それが漫画家や映像作家を押しのけて再び、このわたし、蒲生白香の夢となりつつあった。