白香語り(5)-1
片桐さんは手元においておかなくてはならない。彼にはあの研究室と、そして資金とが付随している。言っちゃ悪いけど、単なる労働力にすぎない海田くんより、はるかに重要なのだ。
そういえば、最近、彼――海田くんに、連絡を取っていなかった。紅香はしているのだろうか。
電話やメール等、連絡を取ること自体はわたしは許可していたから、たぶんしていると思うのだが――申し訳ないけれど、片桐氏を篭絡し、そして資金へのより近道である幸也くんの巻き込みにも成功しつつあるわたしには、技術とも資金とも縁遠い海田くんの存在意義は、かなり薄れていた。正直に言えば、忘れかけていた。
(ま、例の件は、いずれ問い詰める必要があるだろうけど‥‥。紅香もだけど、あの海田くんに‥‥。きつく、ね――)
わたしは、桃香の紅香いじりとは別に、もうひとつ握っているネタを思い起こした。紅香もだけど、海田くんを脅せるネタを――。が、それを使うのは、つまり彼を脅すのは、後の機会に取っておくべきだとわかっていたので、それ以上は考えを進めなかった。それよりいまは、片桐氏なのだ。
氏のいまひとつ感を目撃したわたしは、桃香を、より彼好みに仕立て上げるべく、考えをめぐらせた。ロリ好みの彼に、桃香をより手離したくない存在にする
(――アレ、だな‥‥。いつかの、紅香との――)
わたしが思い至ったアイデアは、元は桃香自身が好んでやっていたことだった。
「ねこみみ化」。あのコ自らがそう呼んでいた、あのコケティッシュな格好だ。
桃香を「ねこみみ化」させるにあたって、わたしなりのオリジナルの要素を付け加えることにした。あの、オープンブラだ。あれをつけさせた上で、さらに桃香に猫の衣装を装着させてみた。耳だけでなく、プラスアルファして。
「――可愛いわよ、桃香。子猫ちゃんみたい」
あれは‥‥紅香調教の時期の終わりごろだったか、桃香は、自分が買ったというその黒に近い濃紺のねこみみを頭に着けている姿を、ご丁寧にもわたしに見せてくれたことがあった。そのときもわたしは、同じことを言った。
「うん。でも、ちょっとしょんぼりなの」
「え? なんで?」
わたしが聞き返すと、桃香は、しっぽや手足の先っぽが別売りなこと、頭を買ったらお金がなくなって、それらを買えなかったことを、本当にしょんぼりしながら話してくれた。
それら足りない部分の値段を聞いたわたしは、しばし考えあぐねた後、
「言うことをよく聞いてたら、お姉ちゃんがそのうち、全部買ってあげる」
と、桃香が喜びそうなことを言ってやった。桃香は素直に、
「本当? わーいわーい♡」
と喜んで、その場でくるくる回ったり、猫のポーズをとったりした。
「そのうち、よ。そのうち。いますぐじゃないからね」
「わかってるわかってる」
「お姉ちゃんの言うことを、よく聞いていたら、だからね」
「それもわかってるわかってる♡」
桃香はソファの上で、得意げな笑顔でわたしにウィンクした。紅香のカラダをまだまだ弄るから、これまで同様わたしに協力しなさい、という意味だと思っているようだった。
(うふふ‥‥)