あなたは紅香と‥‥。(5)-1
桃香の姿が見えなくなったことで、場は、これで一区切り、という雰囲気だった。白香は、最後の椅子を移動させていたあなたにも、言ってきた。
「海田くん、あなたも今日は、もういいわ。お帰りなさい」
と。
「え‥‥」
紅香の帰りと、もうひとつの目的のために、もう少しここに留まりたいと、あなたは思っていたのだ。が、しかし――。
(待てよ‥‥)
あなたは考えた。
(紅香が戻ってきても、きまずいだけで楽しくないかもしれない‥‥)
どうせこの家では、如何なることにも白香の監視の目を意識しなければならないのだ。だが、紅香の帰宅前に自分が帰れば――つまりこの家から出れば、スマホで彼女と連絡を取ることはできるのだ。
(話をつけて、ふたりだけで少し会えるかもしれない‥‥)
あなたは、そう思った。蒲生白香は、妹たちの行動を把握したがっていた。それは、この家に入り浸るようになり、あなたも感じていたことだった。しかし、
(まさかあの白香も、紅香に発信器を取りつけたりはしないだろ‥‥)
とも思った。なんのかんの言って、妹なのだから。
(紅香はあの真面目な性格だから、寄り道せずに戻らなければならないと思っているかもしれないから、ちょっとしか会えないかもしれないけど、ここで会うより、そのほうがいいか‥‥。俺にとっても、そうだな‥‥)
あなたは、大したことはしていないにも関わらず、全身に疲労を感じていた。精神的なものもあるかもしれない。たとえ紅香にでも、長い時間会う気にはなれなかった。なんとなく、この蒲生三姉妹宅から遠ざかりたい心境もあった。そんなあなたに、
「んー? おフロ上がりの桃香のおっぱいでも見たいのー?」
と、白香がテーブルに肘を乗せながら、あなたのもうひとつの目的を、気だるそうに、しかしずばりと言い当ててきて、
(う、うお‥‥!)
と、あなたを狼狽させた。が、彼女は、そんなあなたの調子などまるで意に介していない様子で、続けた。しかし――。
「いいよ、見るだけならね。触ったら、だめ。――おっぱい、見るだけ、ね‥‥」
しかし――。彼女もどうやら、疲れているらしかった。あなたに念を押しているつもりのようだが、ほとんどつぶやきのようにもごもごそう言っていたかと思うと――あろうことか、その場で居眠りを始めてしまった。
(えー、と‥‥‥‥?)
これは、妙なシチュエーションであると言えた。
(無防備というやつですよね、これは‥‥)