あなたは紅香と‥‥。(5)-2
この家の支配者、女主人・蒲生白香は、いまテーブルに両腕を置き、そこに頭を乗せていた。完全に突っ伏しているわけではなく、その顔は左を向いていて、あなたからもよく見えた。すやすやと寝息を立てていた。
(こいつ――あ、いや、白香サンは、寝ておられます‥‥)
天使のようなとは言えないまでも、常日頃発散している邪気がまったくないその寝顔は、歳相応に可愛い、大人っぽくはあるが、しかしやはり女子校生のそれだった。あなたは普段とのそのギャップに驚いた。
(それも、熟睡‥‥。そして――)
驚きながらも、また同時に、あなたはあるものに目を奪われざるを得なかった。
すなわち、テーブルの縁の横から下の空間に大きくこぼれ出た、彼女のおっぱいに――。
もちろん、服に覆われてはいる。いるが例えば、あなたはいままで意識しないように努めてきたが、下も濃いめの空色のミニスカであったりもするのだった。あなたへの挑戦の如く‥‥。
(この状況は一体、なんなのでしょうか‥‥)
あなたは、思わざるを得なかった。自然と、先刻の桃香おっぱいが思い出された(何か忘れているような気もした。大事な誰かを‥‥。しかしあなたは、とにかく目の前の事態に対処せねばならなかった)。
(俺を試す試練なのか‥‥。それとも、千載一遇の――‥‥)
とにかくもう、心のなかでまで丁寧語を使う必要はない。あなたが恐れる鬼――あるいは悪魔――は、完全無防備とは言わぬまでも、少なくとも、意識のない状態で、あなたの目の前にいるのだ。
(‥‥好機。――
あなたは現国の時間に習った熟語を思い浮かべて熟考し、そして、ある仮定にたどり着いた。
(チャンスではないだろうか――!)
あなたは、一歩を踏み出した。そして、また一歩、二歩と、蒲生白香に近づいていった。あのRPGの悪役の、もうひとつの名台詞を思い出し、唱えながら。
「『天の機、我の足元に舞い降りたり――!』」
これは、心のうちだけで唱えたつもりだったが、気がついたら、己の口から小声で漏れていた。
(あ、やべ――‥‥!)
あなたは、自分の口を覆い、肝心なところで自ら墓穴を掘る傾向のある、己の至らなさを呪った。
(これを紅香にばらされたらまずい――! いや、待て‥‥)