ザ-6
関内の大通りから少し入った小さなバーは
常連さんしか行かないような雑居ビルの4階で
カウンターしかないその店は、ほのかな間接照明の中にマスターがいた。
店内にお客さんはたった一人で
入口の近くに座ってマスターと話していた。
「奥いい?」
そういいながら、マスターの返事を待たずに阿部さんは一番奥の席に私を促した。
私が脱いだコートを、勝手知ったるのように店のクローゼットの中にかけ
自分のコートも中にしまうと、やっと私の横に座った。
「なに飲む?」
そう覗き込んだ私の顔を見て
「結構酔ってるな。何でもいい?」
そう笑って、うなづく私にはシャンティガフを頼んでくれた。
自分の分はなんだか知らない、覚えられないようなカクテルの名前を言う。
琥珀色のシャンティガフと、得体のしれない毒の様な綺麗な色をした阿部さんのカクテルが来て
2人で小さく乾杯をする。
「で?やっぱり愛しているから、なんなの?」
私が部屋を間違えた時に言った言葉を綺麗に覚えていて
優しく笑いながらそう聞くけど。
経管のエリート君だと身元が分かれば、その笑顔も多少胡散臭い。
この人たちはこんな優しそうな作り笑いはオチャノコサイサイのはずだ。
そして経管は何でも知ってる。
「ねぇ?商品開発部の鈴木さん♪」
ほぉら、何でも知ってる―――