4月:異動-1
「なに?」
イヤな雰囲気によくない話を感じさせた。
こーゆーカンはよく当たる。
「う、ん」
いい淀むその姿に、やっぱりいい話じゃないんだと確信して
少し前に好きだと確認した相手が何を話すのかじっと待つ。
「転勤が決まったんだ」
「転勤?」
うちの会社は山梨の研究室が最先端なのに
転勤ってことは・・・左遷?
「えっ何かした?」
私の慌てたその言葉に、小川君は一瞬考えてハッと気が付いて
「左遷じゃない」
と手を振った。
「左遷じゃないなら―――」
そこまで言って、最悪の・・・いや、ある意味では最高の考えに思い当たった。
「もしかして」
「うん。ドイツ」
やっぱり。
海外だ。
「本当は金子さんが第一候補だったんだ」
暗い部屋の間接照明の明るさが彼の肩を浮きだたせた。
「最後まで金子さんと所長が協議して
金子さんは今のプロジェクトを最後まで専任することになった」
私のほうを向いてぎゅっと抱きしめる。
「俺のこの年でドイツの研究所に行かせてもらえるのは、本当にラッキーなんだ」
私の身体を優しくなでるその手のひらが小さく震える。
ある意味最高の出来事だと思う。
あらゆる偶然が重なって小川君が候補に挙がったんだろう。
彼の言う通り、普通なら候補にさえ上がらないはずだ。