紅香語り(3)-1
「あ‥‥」
上映会の回想から戻り、わたしは、ハッと我に返りました。
窓下からは、また、子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきていました。見はしませんでしたが、きっと公園から引き揚げながら、わいわい言い合っているのでしょう。その明るい声に、わたしは現実に引き戻されました。そして、ソファに積まれた色とりどりのお洗濯物を前に、落ち込んでしまいました。
(姉妹でエッチな映像の鑑賞なんて――)
こんなの、どう考えても、普通の女子校生の平穏な日常ではありません。
(それも、エッチ映像の主役はこのわたし‥‥)
さて、あのとき、その映像の監督たる白香お姉ちゃんですが――。
「よし、決めた‥‥!」
と、表情を思い悩むそれから決意のそれへとあらため、わたしの脇で小さくそうつぶいやいたのでした。桃香は聞こえていない様子でした。
お姉ちゃんのこういうところは、本当にかっこいいです。
かっこいいのですが‥‥。
横目でわたし越しに桃香をじいっと見つめるお姉ちゃんの視線に、わたしは、
(何を、決めたの‥‥?)
と、微妙に不吉な予感を覚えたもしたのでした。
だって、お姉ちゃんのその視線は、まったく気づいていない妹・桃香の、年齢の割には挑発的な盛り上がりを見せる、胸のふくらみに特に強く注がれていたのですから‥‥。
わたしは、己の内に湧き起こった不安の黒雲を払おうと、三人分のお洗濯物を各々の場所にしまう作業を始め、それに没頭しようと努めました。しかしまた、結局、考えはじめてしまったのでした。
(わたしたち三姉妹が、こんなふうになったのは、一体いつごろからでしょう‥‥)
と‥‥。
わたしは、時間を
お姉ちゃんのおっぱいを、初めて意識した‥‥。
「わ、わ、紅香‥‥ば、ばかぁっ」
あれは、以前――白香お姉ちゃんが、桃香の家庭教師をしてくれていたころのことでしょうか‥‥。お姉ちゃんは、いまのわたしと同じくらいでした。部屋でひとり、パンティー一枚きり、おっぱい丸出しの格好になっていたお姉ちゃんの姿を、よく覚えているのです。アッというように目を丸く見開いて、慌てて裸の胸を隠していたお姉ちゃんの姿を‥‥。
わたしはそのとき、何かの用事で、ノックもせずにお姉ちゃんがいた部屋に入ってしまったのです。その後、どうなったかは、よく覚えていません。なぜなら、腕で抱えるように隠したお姉ちゃんでしたが、そのふくらんだ乳房は、お姉ちゃんの意思に反するかのように、ぷるんと――いえ、ぽろりんと、でしょうか――肘の外側にこぼれてしまっていたのです。その羞恥の姿が強烈すぎて、目に焼きついてしまい、その件に関する記憶の大部分を占めるようになってしまったのでした。
わたしに限って言えば、あのときから、白香お姉ちゃんのおっぱいに興味を持つことになったと思います。恥ずかしいので聞きませんが、お姉ちゃん、そして桃香も、わたしのおっぱいに対して、同じような契機と体験を、持っているのでしょうか‥‥。