紅香語り(3)-2
(桃香に対しては‥‥)
わたしは、思い出をさぐってゆきました。すると――あのコが自転車に乗っている姿が、瞼に浮かんできました。
桃香はその自転車を、立って漕いでいました。ミニスカートをはいていたのですが、そのときはっきりと、そのミニスカがまくれ、あのコの白いパンツが見えたのでした‥‥。
白香お姉ちゃんはわたしの家庭教師役を務めてくれていたことがあるのですが、その同じ時期、お姉ちゃんはまた桃香に、自転車の乗り方を教えていたのでした。なにか、妹たちにいろいろ教えたくなる、そんな時期だったのかもしれません。大人、でした。お姉ちゃんは昔から。
そのころ三人で、サイクリングに行きました。時間帯によってあまり人がこない神社や、そこから緑が連なる公園に。まだ遅い桃香に気を遣いながら、わたしたちものんびりと‥‥。懐かしい、思い出です。
その二年後くらいになります。白香お姉ちゃんは桃香に、新しい自転車を買い与えました。ちょうど、お姉ちゃんが今度は桃香の家庭教師役をしていた頃でした。
わたしのときは、家庭教師「役」という感じで、年齢の近い子ども同士のごっこ遊び的な色合いも濃かったのですが、この桃香のときは本物の「家庭教師」という感じでした。パンツ見えの場面は、その家庭教師もあって、桃香と白香お姉ちゃんがより密接な時期でした。
パンツ。
ええ、「パンティー」と言うより、あれは「パンツ」と表現すべきものでした。そして、色は、いまのようなピンクではなく、白だったのです。
あれは、いまのわたしと同じ、木綿だと思います。あのコは、たまにそうなる瞬間にも気がつかずに、その自転車立ち漕ぎを、続けたのでした‥‥。
そして、いま‥‥。
その桃香に対して再び、家庭教師をつけようかという話が持ち上がっていました。お姉ちゃんが言い出したのです。
「桃香の学力が、心配なのよ、わたし。本気で」
頬杖をつき、眉根を寄せて話すお姉ちゃんは、「お姉ちゃん」の顔をしていました。
わが家では、家事は白香お姉ちゃんとわたしの分担です。最近はわたしのほうが多くなりがちなのですが、基本的にはそういう取り決めです。桃香は、基本的に家のことは何もしないのですが、その割に、成績はわたしたち三人のうちで一番下なのです。わたしやお姉ちゃんと、桃香の下の学院とでは事情が違う‥‥と言いたいところですが、下の学院のほうが、偏差値的にはむしろ低いのです。下の学院で桃香と同学年だったときには、わたしはもうちょっと、お姉ちゃんはずっとずっと、成績はよかったです。はっきり言って。
憂い顔のお姉ちゃんは、ほう、とため息をつきました。
「このままじゃ、将来ニートになっちゃうわよ、あのコ‥‥」
その心配は、わたしにもうなずけるものでした。ニートというより、ひきこもりでしょうか‥‥。
それに、桃香の部屋は、汚いのです。あのコは、いわゆる、片付けられないコなのです。わたしなどは、あのゴチャッ‥‥!とした部屋を見ると、無性に掃除したい、片付けたい衝動に襲われます。あのコのためにもよくないと思って、なんとかそれをおさえつけてはいますが‥‥。