雨の日-1
さて質問。
傘が一本あります。
ここにいるのは、あなたとあなたの想い人の二人です。
時間は六時過ぎ、外はどしゃ降りです。
あなたはどうしますか?
1.相手に傘を貸す
2.無視して自分が使う
3.相合い傘をする
……俺はというと、何もできずに想い人、草薙 春香の方をただ見てるだけだったりする。
声かけようとは思うんだが、上手く言葉が浮かんでこない。
どうしようか思案していると、俺に気付いたのか草薙が振り向いた。
「あ、伊藤くん。珍しいね。こんな時間に」
急に声をかけられたせいで心拍数が一気に上がる。
「た、体育祭の打ち合わせだったんだ…」
少しだけ声が上擦る。
自分の声がやけに響いて何だか恥ずかしい。
草薙はそんな俺の事なんてお構いなしで、眩しい笑顔をふりまく。
「もうすぐだもんね、体育祭。」
ドキドキして上手く話せない。
俺、ウザくないよな?
「それにしてもスッゲー雨。草薙は傘持ってきた?」
それとなく話題を持っていく。
「ん〜それがね、私の置き傘、誰かが持ってっちゃったみたいで……」
もう、最悪。と彼女は困ったように笑った。
雨の音が俺を急かす。
言わなきゃ。
言わなきゃ。
言わなきゃ。
「あの…よかったラ使ってくダさい…」
情けないほど上擦った声で、それだけ言うのがやっとだった。
心臓がうるさくて雨の音が聞こえない。
俺はうつむいて、差し出した傘を強く握る。
長い沈黙。
…やっぱり迷惑だったみたいだ。
だってホラ。
差し出した傘がまだ、手の中にある。
「…伊藤君は、どうするの?」
沈黙をやぶったのは彼女だった。
俺はのろのろと情けない顔を上げる。
彼女は少し困ったような、それでいてどこか嬉しそうな顔をしてるような気がする。
「私だけ傘、使えないよ。」
ああ…。
やっぱり迷惑だったのか。
「だからね…」
それでも優しい彼女は俺に気を使ってくれているのだろう。
何てイイ子なんだ!!
「迷惑じゃなければ…」
そんなコが俺の傘なんて使うハズねぇよな…