あなたは平凡な男子校生。(2)-1
「蒲生――べにか‥‥って?」
「ほら、あなたが通学のときに見ている、あのコよ。――巨乳のw」
「あ‥‥」
あなたが蒲生白香と名乗る巨乳少女と入ったカフェには、『SHARKNADO』という看板がかかっていた。「SHARK」は「シャーク」。サメのことだろう。木目の壁に、木目の柱。そして、サーフボードやマリンスポーツ用のハンモックといった海に関係する品々、何かのトロフィー、そしてここの店主の人なのか、そのトロフィーを手にした体格のいい人の写真等が、店内を飾っていた。
この店には慣れているらしい彼女がジンジャーエールを頼んだので、あなたも倣った。店の雰囲気に、あなたは馴染めないでいた。が、それ以上に、気になることに心を奪われていた。
(紅香っていうのか‥‥)
心のなかで、あなたはつぶやいた。もやもやとしていた予感が、当たった。いや、たまたま合致したことで、当たったような気になったのかもしれないが。
あなたには、朝の通学の電車内で見そめ、こっそり片想いをしていた女のコがいた。あなたの理想そのものといっていい、正統派美少女。清楚で、しかも巨乳の。卵型の整った顔に、素直で純粋そうな目。長い髪は、複数の明るいオレンジ色のヘアクリップでサイドをまとめているときと、そうでないときがあった。
その彼女の名が、蒲生白香と名乗る少女によって、
(「蒲生紅香」――)
だということが、いま、わかったのだった。
(いい名前だ‥‥)
目の前の蒲生白香は、彼女の姉だというのだ。
そのコは――「蒲生紅香」は、制服から、清蘭学院の学生だとわかった。ネットで調べたのだ。写真を撮るわけにはいかないから、あなたが目に焼きつけるようにしてその姿を見つめ、頭に刻み込み、ネットの画像を見つめ――その作業を念を入れて三度繰り返し、確定した。蒲生白香は、同じ制服を着ていた。だから先刻、あなたはハッとし、また白香の制服がすぐにわかったのだ。おかしな言い方になるかもしれないが、努力の成果のようなものだった。