あなたは平凡な男子校生。(2)-2
「蒲生紅香」は、学年はわからないが、なんとなくひとつ下くらいだとあたりをつけていた。彼女を通学電車内で目にするようになったのは四月からで、それはつまり、あなたが調べて知った場所に校舎がある清蘭学院に彼女が通いはじめたのでは、と推測したのだ。
あなたのその読みは当たっていたことが、目の前の姉・蒲生白香によって裏づけられた。そのとおり、清蘭学院の学生で、学年はひとつ下だった(ちなみに目の前の白香は、あなたのひとつ上ということだった)。
ジンジャーエールが運ばれてきた。
蒲生白香は、髪をかき上げるようにして、ストローからひとくちすすった。その仕草は色っぽく、また、まるで本当に夏のビーチにいるかのような錯覚をあなたにも――ニブいあなたにも起こさせるほどの、雰囲気があった。
店内には、ビキニの女性が出てくる映像で聞くような音楽が流れていた。人によっては楽しい空間なのかもしれなかったが――リア充の遊び人は好むだろう。実際、そういう感じの派手な服装の若者客が三人ほどいて、うちひとりが、あなたと蒲生白香が気になるらしく、たまにこちらに視線を送ってきていた――あなたは落ち着かなかった。
「大丈夫よ。ああいう格好してるけど、悪い人たちじゃないから」
蒲生白香がそう言ってくれたので、あなたは気にしないように努めた。――それよりも、本題のほうが大事だ。遠距離通学といえるほど大仰なものではないが、あなたの通学の移動距離は長かった。清蘭学院は、あなたが通う学校とはかなり離れていた。彼女――「蒲生紅香」には、話しかけたことはおろか、近づいたことさえ、ない。向こうは、 あなたの顔も名前も、知りはしないだろう。そんな見ず知らずのはずの、どこにでもいるようなごく平凡な男子校生のあなたに‥‥。
(な、なにを頼むって‥‥?)
さっきのあれは聞き間違い‥‥。
「え? ううん、聞き間違いじゃないわ。言った通りよ。聞こえたでしょ。妹の紅香のおっぱい調教をしてほしいのよ」
な、なんですか、それは‥‥と、自分がたぶん目を丸くしているであろうことを察しつつ、あなたが二の句をつなげないでいると、蒲生白香はにっこりと邪気のない、しかし大人っぽい笑顔を見せて、つづけた。
「妹――あの紅香、おっぱいは何カップあると思う?」
蒲生白香はその大人びたのまま、先刻、この店に入るときと同様、やぶから棒に聞いてきた。
「な、なんですか、突然‥‥」
あなたは口を尖らせた。しかし、そうしながらも、その脳裏には――網膜には、というべきか――蒲生紅香の、あの豊かな
しかしそれでも、白のスクールシャツとブレザーに覆われてなお、彼女のバストは、豊かなふくらみを――はっきりとした隆起を描いていた。