お姉さまのミリタリー講座〜はじめての拳銃編〜-1
突然だがこの世界での乙女のたしなみとは銃を磨きながら優雅に紅茶を楽しむ事である。
今、それを私は最高に実践していた。目の前には完全に分解されたルガーP08といれたばかりのアールグレイが並んでいる。
(それにしても…ただのクリーニングならともかく完全に分解すると組み立てるのが面倒だわね……。)
内心これからの事に面倒くさがりながらも、熱を持った瞳で愛銃を見つめる私は手のかかる彼氏を持った恋する乙女…と言うところか。
テーブルの上を眺めながら私は秘かな自慢であるウェーブがかかった長い髪を櫛で整える。
今では時代錯誤とも言える盛大にフリルがあしらわれたドレスは潤滑油で所々汚れていた。
「お姉さまっ!」
部品の数を数え終わり、組み立てようとした所で急に部屋のドアが開いて白い綿のシャツにガーディガンをはおった少女が入ってくる。
髪型はストレートのセミロングでいつも潤んだ瞳を持つ彼女は私にとっては妹のような存在であり、大切な人でもある。
「どうかしたの…由衣。」
いつもと様子が違う妹の様子に驚きながらも平静を装って問いかけた。
走って来たのか、彼女が気に入っている膝まである紺色のスカートが皺になっている。
「銃の使い方を教えて下さい!」
今まで怖いとか言って銃に寄りつかなかったツケが回ってきたのだろうか。
…恐らく友人にまともな扱い方を知らない事を馬鹿にされて来たのだろう。
「どうかしたの?今まで嫌がっていたのに急に教えてくれだなんて…。」
「学校の射撃実習の時に扱い方をわからないからってお友達に笑われて……。」
予想通り過ぎてアールグレイティーを吹き出しそうになった。
とりあえずルガーを組み立てた後、汚れたドレスを着替えて私の家の地下に有る射撃場に向かう事にした。
「お姉さまって着替えてもドレスなんですね。」
地下へ向かうエレベーターの中で由衣が私の姿を見て言った。
確かにこれから銃を撃つのに今の私のドレス姿と言うのはあまり見ない。
しかも腰には私の愛銃、ルガーP08が入ったホルスターがかかっていてシュールとも言えよう。
「これしか無いのだから仕方ないじゃない。」
本当は普通の服も有るのだが、服のセンスをどうこう言われるのは嫌なので適当な事を言って誤魔化す。
「やっぱりお姉さまって凄い……。」
疑う事を知らない由衣の瞳に見つめられ少し良心が痛んだ。
しばらく無言でいるとエレベーターが止まり、扉が開く。
「さあ、行きましょう。」
私は由衣の手を取り、エレベーターの外に出た。
しばらく廊下を歩いていると私の先代から改良に改良を重ねたシューティングレンジが姿を表す。
一定間隔毎に仕切りによって十ヶ所程区切られ、前には人の形をを模した的が並んでいた。
私は由衣の手を引いて仕切られた空間の一角に連れこんで説明をする。
「これから実際に撃ったりするけど言う事が何個か有るから良く聞くのよ…良い?」
「はいっ…お姉さま!」
由衣から発せられる良い返事に顔がにやけそうになるが気を確かに持って説明する。