小さな日付の枠の中に-1
「平成」という時代に区切りがつこうとしている。
俺は押し入れの奥から、自分が書いてきた平成時代のスケジュール帳を取り出した。
自分なりに平成を思いかえしてみたくなったんだ。
スケジュール帳とは言うが、俺は小さな枠の中に、シャープペンシルでその日あった出来事を 自分にだけわかるキーワードだけ書き記す使い方をしていた。
スケジュール帳を眺めていくうちに、平成3年9月のある日の枠に目がとまった。
『ピチオレンジ』『プチハッピーデイ』
それは当時発行されていた、月刊の付録つき少女マンガ雑誌の名前だ。
俺のパンツの奥が、くすぐったく燃えはじめた。
俺は この日この雑誌を買ったんだ。買ってあげたんだ。
と言うより、買ってあげることになってしまったんだ。
ジッと見つめるうちに、その日付の枠がグルグルと回ってきた。
枠はグルグル回りながら、俺を囲むように大きくなっていく。
俺の視野は次第に、青白い光に包まれていった。
「マズイ、血糖値下がって来たのかな?……」
────
俺はいつの間にか、商店街の端に立っていた。
(ええっ、ここは再開発でなくなったところだろ?)
俺は左右を見ながら歩いた。カメラ店、和菓子店、うどん店…… そこは、俺が自転車をちょっと遠乗りさせてやって来ていた昔ながらのアーケード商店街だった。
もうそのころから人通りは少なくなっていて、店の人同士でしゃべっている姿ばかりが目立っている。
(うひゃッ!)
書店があった。店先に並ぶ雑誌を見ると『1991年10月号』なんて文字が目立ってる。
(うわッ…… 俺、今タイムスリップとかを体験してしまったけ?)
俺はハッとした。
(もしかして、今俺がいるは『あの日』なの?
だとすればこのままここにいたら あの子がここに来るのかな……?)
俺がそう思ったとたん、むこうからひとりの女の子が歩いて来るのが見えた。
s学三年生くらいの、(天然パーマなのか)髪がちぢれた小さな女の子だった。
まだ9月で夏の名残か、やたら大きなTシャツを着ている。Tシャツのすそから直接脚が出ている。
(短パンとか はいてないんだよなぁー)
それは、あの日見たままだ。俺は書店から少し離れて、女の子のようすを見つめた。
女の子は書店の前に来ると、書店の前に置かれていた雑誌を手にとり、胸にかかえると身体を前に傾けてスーッと書店のワキの細い路地に入っていった。
(やったな…… あの日も、あの日もあの子はあれをやったんだ!)
俺は女の子を追って、路地に駆けていった。